研究課題
原因不明の巨脳症患者を全国から28例集積し、遺伝学的解析および生化学的解析を実施した。遺伝学的解析はmTOR系に属する15遺伝子を搭載した遺伝子解析パネルを作成し、Ion PGMを用いて解析した。その結果、12例(42.9%)に原因変異を同定した。生化学的解析はEBウイルスにより株化リンパ芽球様細胞を樹立し、リン酸化S6蛋白量をウエスタンブロット(WB)により解析した。13例に解析を行い、その内8例(61.5%)でmTOR系の機能亢進を示すリン酸化S6蛋白量の有意な増加を確認した。パネル解析で陽性であった例でWB解析ができたのは5例であり、全例(100%)で陽性であった。パネル解析で陰性であった例でWB解析ができたのは8例であり、その内陽性は3例(37.5%)であった。パネル解析で陰性であったが、WBでmTOR系の機能亢進が確認された3例に全エキソーム解析を実施した。その結果、2例でははっきりした候補遺伝子が同定されなかったが、1例でSHOC2のde novoミスセンス変異が同定され、原因と考えられた。SHOC2変異はNoonan症候群類縁疾患の原因として知られており、SHOC2変異も巨脳症の原因になりうること、さらに、RAS-MPK系のみならず、mTOR系の機能亢進を示すことを明らかにすることができた。十分な臨床情報が得られた13例について遺伝型と表現型との検討を行った。その結果、PTEN変異では皮質形成異常が伴わず、発達遅滞の程度も軽症の傾向が明らかになった。さらに、PIK3R2やAKT3の変異であっても手指の異常や血管腫を伴わないことも明らかとなり、臨床症状の多様性が示された。これらの成果をまとめて論文発表を行った(Negishi et al. BMC Med Genet 2017;18:4.)。
2: おおむね順調に進展している
28例の症例を集積し、遺伝学的解析および生化学的解析を実施できた。その過程で、パネル解析およびウエスタンブロット解析を繰り返すことで、方法論の確立を行うことができた。解析結果を検討し、論文にまとめることができたため、臨床検体を用いた解析については、順調に進んでいると評価できる。特にウエスタンブロット解析については、リン酸化S6抗体のみでなく、mTOR経路の複数の蛋白に対する抗体の整備を進めており、数のみならず、実験の質の向上に務めることができた。一方、モデル動物解析については、現在CRISPR/Casベクターの調整を行っているところであり、モデル動物の作成に至っていない。この点は本年の検討課題である。
臨床検体を用いた解析については、引き続き全国から検体の集積を進める。論文が出版されたことで、全国からの照会は増加しており、検体集積の加速が期待できる。現在比較的頻度の高いPTEN変異例の解析を行っており、表現型について新規の知見を報告できる見込みである。ウエスタンブロット解析は抗体を複数用いることで、質の高い機能解析の実施を継続する。パネル解析で変異が同定されない例には、特にウエスタンブロットで陽性例については積極的に全エキソーム解析を予定している。動物実験については、適切なCRISPR/Casベクターの構築を行い、モデル動物の作成を目指す。作成が順調に行かない場合は、患者由来細胞を用いたmTOR阻害剤の効果実験をin vitroで実施することで補完することを考慮する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
BMC Med Genet
巻: 18 ページ: 4
10.1186/s12881-016-0363-6.