研究課題/領域番号 |
16K15547
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
秋山 真志 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (60222551)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 皮膚科学 / 臨床遺伝学 / 遺伝学 / 先天性角化異常症 / ゲノム構造 |
研究実績の概要 |
本研究では、臨床的には常染色体劣性の遺伝性疾患である道化師様魚鱗癬と診断されるものの、原因遺伝子のABCA12にヘテロ接合性のみに変異を認めるため、遺伝子診断の確定しない症例を対象としている。これらの患者では、道化師様魚鱗癬類似の他の先天性魚鱗癬の原因遺伝子にも変異が無く、毛髪由来RNAでABCA12の発現の低下が有る事からABCA12のエクソン及びその周辺もしくは近傍プロモーターを対象とした配列解析では発見できない変異が有る事が想定される。このような症例で、本研究では特に遠隔プロモーターの変異や、ゲノム構造異常にによる疾患発症の可能性について検討した。 対象となる道化師様魚鱗癬の4症例について、全エキソームシークエンスを行い、これまで発見し得なかったABCA12の複数のエクソンのlarge deletionを含め、3例でABCA12のコーディング領域に新規の病原性変異を発見した。残る1例についてはやはりヘテロ接合性のみに病原性変異を認めたため、さらに検討を進めた。ABCA12以外の角化関連遺伝子および脂質関連遺伝子について、これまで疾患との関連が報告されていない遺伝子を含め、全てリスト化し、両アレル性に機能喪失を起こす変異もしくはエクソンの欠失について検討した。結果として、ABCA12以外の新規の原因遺伝子の存在は否定的であったため、この症例は、当初予想していたように、ABCA12の未知の原因による発現異常による可能性が残された。 ABCA12の表皮ケラチノサイトにおけるtopologically associating domainはおよそ3M塩基長に及ぶ事が知られている。患者及び、患者父母のABCA12の近傍の5M塩基長について、配列解析を行った。現在は配列解析を終えて、ゲノム構造の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
解析候補として挙げていた家系について、ABCA12遺伝子の再度のシークエンスを行い、その後、SNPアレイを行う予定であった。しかし、実験を行う段階で、全エキソーム解析を当初より大幅に安く行う事が可能になり、それぞれのprobandの全エキソームシークエンスをまず行う事と方針を変更した。これにより、全てに既知の魚鱗癬関連遺伝子に加え、潜在的に先天性魚鱗癬の原因遺伝子となりうる脂質関連遺伝子についても、変異の有無を確認できる事が可能となった。これらの結果、本研究で解析すべき家系は1家系に絞り込まれたが、この家系について、患者以外に、その父母及び祖父母の遺伝子を収集する為に時間を要した。また、この間に全ゲノムシークエンスの受託研究のコストが低下し、当初計画していたキャプチャーシークエンスとほぼ同等になったため、この方法によりABCA12近傍の遺伝子を解析することに方針を変更した。これにより、ライブラリーキャプチャーのステップを減らす事で、得られるデータの正確性が向上する事が期待された。 このように、当初予算的に想定していなかった各種受託研究のコストの低下により、実験計画を変更した事、解析の精度を上げる為に、患者家族の検体を再収集した事、により、実験計画の遅延を生じた。 現在は絞り込まれた患者とその父母の検体について、ABCA12遺伝子近傍の配列が正に取得できた段階であり、ゲノム構造の変化について解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、得られた配列について転座、重複、反転等のゲノム構造の変化、および遠隔部位の配列欠失について、解析を進めている。個々から得られる結果を、公開されているクロマチン修飾およびHI-Cデータベースを用いて、 ABCA12の発現低下との関連性について推定を行う。病原性を持つ可能性のある変化については、ケラチノサイトを用いて Chromosome conformation capture-on-chip (4C)を行い、ABCA12プロモーターとの相互作用の有無を検討する。将来的にはCRISPR/Cas9等の遺伝子編集を行い、患者ゲノム上の変異と同様の変異を持つケラチノサイトを作成し、ABCA12の発現低下の有無を確認し、4Cによる遺伝子領域間相互作用の変化を検討する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述のごとく、予算的に想定していなかった各種受託研究のコストの低下により、実験計画を変更した事に加えて、解析結果の解釈の精度を上げる為に、患者家族の検体を再収集した事、により、実験計画の遅延を生じた。この為、4C等の実証実験は本年度中に施行できなかった。当初、これらの細胞実験のために計上していた費用を次年度使用額として繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
4Cを行う際に必要となる細胞実験に必要な培地、消耗品、および抗体等の試薬を購入する。また、4Cを行う際のhigh throughput sequencingの受託実験の費用として使用する予定である。
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