本研究では、臨床的には常染色体劣性の遺伝性疾患である道化師様魚鱗癬と診断されるものの、原因遺伝子のABCA12にヘテロ接合性のみに変異を認めるため、遺伝子診断の確定しない症例を対象とした。これらの患者では、他の先天性魚鱗癬の原因遺伝子にも変異が無く、毛髪由来RNAでABCA12の発現の低下が認められた。このような症例で、本研究では、特に遠隔プロモーターの変異や、ゲノム構造異常による疾患発症の可能性について検討した。 昨年度までに対象4症例について全エクソームシークエンスを行い、3例においてはABCA12のコーディング領域に新規の病原性変異を同定した。残りの1例では全エクソームシークエンスにても、ABCA12、その他の魚鱗癬病因遺伝子のコーディング領域の病原性変異を同定できなかった。 本年度、この患者、および、患者父母のABCA12の近傍の5M塩基長について、配列解析を行った。ABCA12の表皮ケラチノサイトにおけるtopologically associating domainはおよそ3M塩基長に及ぶことが知られている。ゲノム構造を解析するために、得られた配列について、転座、重複、反転等のゲノム構造の変化、および、遠隔部位の配列欠失について、分析を施行した。個々の解析から得られたデータを、公開されているクロマチン修飾、および、HI-Cデータベースを用いて、ABCA12の発現低下との関連性について推定を行った。病原性を持つ可能性のある変化については、ケラチノサイトを用いて、Chromosome conformation capture-on-chip (4C)を行い、ABCA12プロモーターとの相互作用の有無を検討した。
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