研究課題/領域番号 |
16K15553
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
中村 和裕 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (10327835)
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研究分担者 |
川崎 平康 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 研究員 (00363268)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 赤外自由電子レーザー |
研究実績の概要 |
我々の2016年の研究成果において、中赤外領域の特定の波長(6ミクロン)の光を赤外自由電子レーザーで発生させ、それをポリグルタミン凝集体に照射したところ、凝集体を解離させる効果があることを見出した。更に、同じ波長のレーザーは培養細胞内のポリグルタミン凝集体解離にも有効であることを発見した。我々は上記知見がアミロイドベータの凝集体解離にも適用できるのではないかと考えた。6ミクロンの波長をアミロイドベータ1-42ペプチド凝集体に照射し、赤外顕微鏡でベータシート構造を持つものの割合が減少し、電顕解析で凝集体解離を確認した。同じ波長のレーザーは他のアミロイドベータアイソフォームであるアミロイドベータ1-40および1-43のペプチド凝集体の解離にも有効であった。 本申請ではアルツハイマー病脳切片に対してレーザーを照射し、アミロイドベータ凝集体を解離できるかどうかを調べることを目的とするが、その前段階としてアルツハイマー病モデルマウス脳切片に対して照射を行い、凝集体を形成するベータシート構造を取るたんぱくの割合が減少するかどうかを調べた。使用したアルツハイマー病モデルマウスは3xTgADマウスであり、変異アミロイド前駆体たんぱく、タウ、プレセ二リンの3種類すべてをノックインあるいはトランスジーンとして発現させたマウスである。 20ミクロンの厚さのマウス脳冠状断切片にレーザーを照射し、赤外顕微鏡で大脳皮質の領域からデータをとり、構造解析ソフトを使用し、たんぱくの2次構造の解析を行った。つまりアルファヘリックス、ベータシート、ベータターン、それ以外のコンフォメーションを持つものの割合を定量した。中赤外領域の波長(5、6ミクロン)の赤外自由電子レーザーはアルファヘリックス構造を持つたんぱくの割合を有意に増やし、逆にベータシート構造を持つたんぱくの割合を有意に減らすことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請ではアルツハイマー病脳切片に対してレーザーを照射し、アミロイドベータ凝集体を解離できるかどうかを調べることを目的とするが、その前段階としてアルツハイマー病モデルマウス脳切片に対して照射を行い、凝集体を形成するベータシート構造を取るたんぱくの割合が減少するかどうかを調べ、結果を得ることができたから。
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今後の研究の推進方策 |
アルツハイマー病モデルマウス脳切片に対して行った照射、解析方法を使って、次年度はアルツハイマー病脳切片に対して同様の実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年前に設定した研究計画では、1年目の2016年度においてアルツハイマー病患者脳に対する照射、解析の一部をスモールスケールで行う予定にしていたため、上記金額を設定した。アルツハイマー病患者脳切片は少量しか入手できないため、使用サンプルを必要最小限にして実験を効率よく行う必要がある。その為にはアルツハイマー病モデルマウス脳切片を用いて十分な条件検討を行うことが近道である。1年目において、マウスのデータ取得を行った。次年度使用額に回された約20万円は使用予定であったが、結果として使用せず時年度に繰り越したアルツハイマー病患者脳切片入手額と赤外自由電子レーザー照射装置の機器使用額である。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度において、アルツハイマー病モデルマウス脳切片に対して照射を行い、赤外顕微鏡解析の結果、ベータシート構造を持つものの割合が有意に低下したという結果を得た。したがって、翌年度はマウスに適用した実験条件をアルツハイマー病患者脳切片にそのまま適用することができる。翌年度はアルツハイマー病患者脳に対する照射、解析をラージスケールで行う。繰り越し金額に当初の予定額を合わせた金額を翌年度に使用する。その内分けはアルツハイマー病患者脳切片入手額と赤外自由電子レーザー照射装置の機器使用額、およびデータ解析のためのウェスタンブロット、免疫染色、形態解析にかかる費用である。
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