本研究課題では中赤外光をアルツハイマー型認知症の脳組織に照射することによって、凝集したアミロイドベータを解離することができるかどうかを調べることを目的とした。適用する中赤外領域の波長は6ミクロンとした。理由はマウス脳切片に対して6ミクロンの波長の光を照射したところ、ベータシート構造を持つたんぱくの割合が減少し、アルファヘリックス構造を持つたんぱくの割合が増加したためである。昨年度は、脳試料の調整方法として、凍結脳にPBS 300ー500μlを加え、超音波で粉砕したものを使用した。このようにして調整した均一な試料を2本のチューブに分け、1本は照射を行わないコントロール試料として用いて、他の1本の試料に対しては6ミクロンの波長の光を照射した。一部の症例からの脳試料に対して、アミロイドベータ抗体を用いたウェスタンブロットを行った結果、シグナルの強度および移動度に差は認められなかった。今年度は別の症例からの脳試料も用いた。更に、PBS内に脳を入れ、超音波で粉砕した試料に加えて、PBS非存在下で脳切片そのものに対して直接6ミクロンの光を照射したものも用意した。照射を行っていない試料と照射後の試料からたんぱくを抽出し、アミロイドベータ抗体を用いたウェスタンブロットを行った。未照射および照射後のサンプル両者において、アミロイドベータに関しては、モノマーに相当するバンドに加えて、様々な移動度のバンドが見られた。更にフィブリル特異的抗体、オリゴマー特異的抗体を用いてウェスタンブロットを行った。未照射と照射後のサンプル間のシグナルのパターンの差異が、症例間および使用抗体間で異なった。今後は6ミクロンの波長を用いて、照射の強度を上げて解析を行う予定である。
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