研究課題/領域番号 |
16K15555
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
菊知 充 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 教授 (00377384)
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研究分担者 |
林 則夫 群馬県立県民健康科学大学, 診療放射線学部, 准教授 (50648459)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 注意欠陥多動性障害 / 聴覚 / 幼児 / 脳磁図計 |
研究実績の概要 |
本課題は、脳機能の下位のレベルに位置する聴覚情報処理の幼少期の発達が、より高位のレベルにある「注意」「衝動制御」の成長に影響するかについて調べる。実際に注意欠陥多動性障害(以下ADHD)において、通常の聴力検査に問題はなくても、軽微な聴覚情報処理の異常が約50%に存在すると報告されている。聴覚情報処理の異常は、「認知特性」に影響を与え、「注意力」「言語力」「ワーキングメモリー」などの心理的発達に影響を与ると考えられる。「聴覚情報処理の非定型性が、発達に影響をおよぼす」という新しい萌芽的モデルの検討が、本研究の目的である。そのために、中枢神経系の評価については、幼児期で脳機能記録が実施可能な日本唯一の幼児用脳磁図計(以下幼児用MEG)を活用し、実際の行動と、聴覚情報処理の関係について検討する。研究対象として、ADHD患者を含む20名の5-7歳発達障害の幼児、および定型発達幼児5-7歳20名、極低出生体重の既往のある5-7歳10名の協力をえてデータ収集を行った。ADHD患者の場合、診断はDSM-5を用いて行った。金沢大学医学倫理委員会の承認のもと、親権者に研究の内容を文書にて十分に説明した後に、文書にて同意を得た。中枢性聴覚情報処理の評価方法については、日本で唯一の幼児用MEGをもちいて評価した。具体的には穏やかな音圧の、音刺激に対する聴覚野の反応(P1m)を測定し、左右の脳からの反応性の同調性や、潜時の左右差などをもちいて脳の成熟の程度を評価した。刺激加算回数は150回とした。認知機能評価には総合的にはKaufmanAssessmentBatteryforChildren(K-ABC)テストを行った。日常生活における多動傾向や概日リズムについては、幼児へのストレスの少ない、ウェアラブル活動量計を用いて評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた被験者数からのデータ収集が実施できた。すでに、実際にえられたデータから、音声にたいする、脳の左右の同調性が、幼児の安静保持能力に関係していることも分析結果から得られており、おおむね順調に進展していると考えられる。ただし、純粋な注意欠陥多動性障害の幼児のリクルートは比較的難しく、様々な発達障害の合併があることなど、被験者の多様性を考慮していく必要があるため、「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きデータ取得継続する。前年度計画すべてを同様に継続し、サンプル数の増加をはかる。データのまとめ:ダイポール推定された聴覚刺激誘発の電流強度と、左右の同調性について、注意や抑制機能に関わる行動学的指標、および日々の活動量や概日リズムに関する指標との関連を統計的に検討する。中枢性の聴覚反応の発達と、注意に関係する認知機能の成長や、多動の程度との関連性や多様性を明らかにする。概日リズム(睡眠覚醒のパターン)の異常が検出された場合は、それ自身が原因になり得ることを考慮して交絡因子として扱う。特徴的な要素を検出し得た場合には、それを一つの「注意力発達モデル」として提案する。得られた成果を論文にまとめ、欧文医学誌に投稿・公表する。その後速やかにプレスリリースを行う。データの統計解析および論文化は、研究代表者が行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度、特定の協力的な被験者が他の研究への参加の際に、当研究への協力はボランティアとして参加していただける環境となった。短期間に集中することが偶然可能となり、実験期間に比例して利用負担の増えるヘリウムガスのコスト削減を図ることができた。また、解析に必要な研究員のパート雇用については、データ解析に重点的なタイミングで効率よく実施するために、データが構築される次年度に雇用することが現実的であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、ボランティア被験者を短期間に集中する見込みがない。そのことから長期間の幼児用MEGの使用が考えられ、その結果ヘリウムガスのコスト削減は困難である。単価が高騰し続けているヘリウムガス料を補てんするため、前年度から繰り越される費用を活用する。更に、膨大なデータを解析するための、解析ソフトウェアの補充と研究補助のパート雇用のために研究費を活用し、研究成果の国際科学雑誌への発表に向けて活動する。本研究の成果の国際科学雑誌掲載料にも活用する。
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