研究課題
本研究では、PET分子イメージングプローブが放出するチェレンコフ光を利用し、光の届かない部位にある癌の光治療を試みている。PITは、近赤外蛍光にて励起される有機分子(IR700)を用いた画期的ながん治療法である。しかし、光は電離放射線と異なり生体透過性が低く、一般に光治療は浅部組織に限られる。そこで、癌に集積したPETプローブのチェレンコフ光を利用し、Cerenkov luminescence resonance energy transfer (CRET)現象による光反応性薬剤の励起を行うことで、深部癌の治療、さらには発見が困難である微小癌の治療を目指す。平成28年度は、まず、チェレンコフ光にて励起可能なIR700分子のSoret吸収帯の励起により、近赤外領域であるQ帯の励起と同じように細胞死が起こるか検討を行った。3T3/HER2細胞にHER2受容体に結合するTrastuzumab-IR700を加え、蛍光顕微鏡を用いて近赤外光または紫外光を30 sec当てて、細胞の様子を観察した。この結果、どちらの吸収帯の励起でもモル吸光度係数に応じた細胞死が起こることが判った。次に、癌細胞に発TrastuzumabのFabフラグメントを18F標識したものを作製した。18Fは半減期が2時間と短いため、体内動態を考慮するとIgGでの適用には適さないためである。3T3/HER2細胞に18F-TrastuzumabFabおよびTrastuzumab-IR700を加え、LIVE/DEAD染色およびMTTアッセイにより細胞死を検討したが、どちらも明確な細胞死を認めることはできなかった。そこで、まず、インビトロで細胞死が起こる条件を確立するため、whole IgGであり親和性が高い18F-TrastuzumabとTrastuzumab -IR700を用いてPITが起こるか検討を行うこととした。しかしながら、Fabフラグメントと同様に細胞死は確認できなかった。よって、A431-GFP-luc細胞とPanitumumabを用い、Luciferinの発光強度を測定することで細胞活性を定量することとし検討した。しかしながら明確な差を認めることはできなかった。
3: やや遅れている
当初予定では、平成28年度は89Zrからのチェレンコフ光を利用し89Zr標識抗体を用いた検討を行うことを予定していたが、89Zrの入手および利用が困難であったため、平成29年度以降に行う予定であった18F標識抗体とIR700結合抗体を組み合わせ、CRETによる光治療が可能かの検証を先行して行った。しかしながら、細胞死を観察することはできなかった。18Fから放出されるβ線のエネルギーは89Zrに比べて弱いためチェレンコフ光の効率が低いこと・半減期が短いことも原因の一つとして考えることができるが、PETプローブと光反応性薬剤が同じ標的分子に結合するため、標的分子が飽和したとも考えられる。18FによりIR700が励起されること、Soret帯の励起により細胞死が起こることは確認できたものの、予期せずチェレンコフ光による細胞死を引き起こすことには現在では成功していないため(3)やや遅れていると判断する。ただし、平成29年度以降に89Zrでの検討を開始するとともに、2種類の抗HER2抗体TrastuzumabとPertuzumabを用いHER2に抗体が飽和しにくくし、IR700と18Fが近傍に存在させてCRETを効率よく起こす工夫を施すことで当初予定通りに研究を推進する。
平成28年度の検討により、抗原が飽和し効果が出にくくなっている可能性が示された。そこで、それぞれ抗原の別の部位に結合する2種類の抗HER2抗体TrastuzumabとPertuzumabを用いることでHER2に抗体が飽和しにくくし、また、IR700と18Fが近傍に存在させてCRETを効率よく起こすことを狙う。また、89Zrの入手が可能となる予定であるので、当初予定どおり89Zrによる検討を行う。さらに、チェレンコフ光は屈折率の高い導電体のほうが発生しやすいため、インビボでの検証も行ってみる。
当初予定していたCRETによるインビトロでの細胞殺傷効果が十分に認められなかった。そこで、インビボでの検討を推進することができず、動物実験に使用予定であった余剰分が生じた。また、手続き上予想に反し89Zrの入手が困難であったため89Zrの検討を行うことができず、余剰分が乗じた。
次年度以降、動物実験を推進するための動物購入費・飼育費用、および、新規核種購入および標識合成のための消耗品代として使用する予定である。
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Oncotarget.
巻: 8 ページ: 10425-10436
10.18632/oncotarget.14425