前年度に行ったスクリーニングによって得られた遺伝子のうち、低酸素誘導因子-1(HIF-1)の活性にも影響を及ぼすことが判明した遺伝子の一つに着目し、過剰発現ベクターやshRNA発現ベクターの構築を行った。これらのベクターをがん細胞に導入し、放射線に対する感受性が変化することを確認した。さらに、当該遺伝子を過剰発現した細胞を詳細に解析した結果、還元型グルタチオンの比率が増大していたことから、細胞内レドックス状態を変化させることによって、放射線抵抗性を獲得したことが示唆された。さらに、この還元型グルタチオン比率の増大がどのようなメカニズムによるものか解析を行った。その結果、ペントースリン酸経路が優位に亢進しており、ペントースリン酸経路によって生成されるNADPHによって、細胞内の還元型グルタチオン量が増加することで、放射線抵抗性を獲得していることが明らかになった。また、当該遺伝子の過剰発現によって放射線抵抗性を獲得した細胞のHIF-1を阻害したところ、この放射線抵抗性の亢進が失われたことから、この代謝経路の変化による放射線抵抗性獲得が、HIF-1経路を介していることが示された。 この結果は、HIF-1が代謝経路をペントースリン酸経路優位なものにすることにより、細胞内レドックス状態を還元状態に保つことで放射線抵抗性に寄与することを示すデータである。今後、該当遺伝子に対する阻害剤などを開発することによって、がんの放射線抵抗性克服につながることが期待される。
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