研究実績の概要 |
全身臓器の機能診断や、様々な疾患の内用療法等の核医学検査・治療に使われる放射性医薬品の原料となる放射性同位体(RI)は、従来、海外の原子炉で核分裂生成物から精製・供給されていたが、原子炉の老朽化により世界的な供給不足が危惧されている。本研究では、将来の国内における医療用のRIの安定供給の実現を目指して、電子線形加速器で発生させる制動放射線を利用した医療用RIの製造技術を確立するための基礎検討を行うことが目的である。現在、国内外で治療もしくは診断に用いられる医療用RIのうち、電子線形加速器で発生させる制動放射線により、製造が期待される核種として、スカンジウム(Sc)-47, 銅(Cu)-67, ガリウム(Ga)-68, イットリウム(Y)-90, テクネチウム(Tc)-99m, ロジウム(Rh)-105, サマリウム(Sm)-153, ルテチウム(Lu)-177, レニウム(Re)-188の9核種が挙げられる。平成28年度は、これらのうち、Cu-67, Ga-68, Tc-99m, Rh-105, Lu-177, Re-188の6核種について、京都大学原子炉実験所の電子線形加速器で製造し、その量を見積もり、この方法で将来の国内需要を満たす量の製造が可能かどうかを評価した。 上記の結果をもとに、電子線形加速器を利用した医療用RIの製造システムが確立すると、現在最も利用されているTc-99mだけでなく、これから国内で認可されるLu-177、現在開発中の薬剤の原料であるCu-67, Ga-68, Re-188が、一つのシステムで製造可能となる。これは、これまで国内では検討されていない斬新な方法の提案である。また小型化が可能なこの加速器システムは、将来、各都市の医療施設に導入され、国内需要を満たす医療用RIが安定して供給されることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に製造の検討を行った6核種(Cu-67, Ga-68, Tc-99m, Rh-105, Lu-177, Re-188)については、電子線形加速器で発生させた制動放射線を、各金属(Zn, Ge, Mo, Pd, Hf, Os)に照射することで製造可能であることを確認した。各生成核種について得られた情報を以下に示す。 Cu-67: 制動放射線を照射した亜鉛のγ線エネルギースペクトルを確認したところ、Cu-67以外のCuの放射性同位体は確認されず、副生成物として亜鉛(Zn)-65やZn-69mのみが確認された。今後、これらの副生成物をイオン交換法等により除くことで、無担体のCu-67を得られる見込みである。 Re-188: 制動放射線を照射したOsにおいては、Re-188の他にRe-189も生成が確認された。患者の過剰な被ばくを防ぐ観点から、Re-189の生成量を確認する必要がある。そこで両者の生成量を比較したところ、実験結果が核反応理論計算コードであるTALYSによる理論反応断面積の計算結果とは矛盾することが分かり、今後の検討が必要である。 Tc-99m: 電子線形加速器を用いて製造する方法と、ターゲットのMoからの分離の方法について、Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 311 (2017) 1361-1366に公表した。
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今後の研究の推進方策 |
・制動放射線を効率的に発生させるため、白金ターゲットを用いず、照射ターゲットを制動放射線の発生源として兼ねる方法を検討する。粒子・重イオン輸送計算コード: PHITS (Particle and Heavy Ion Transport code System)を用いたシミュレーションによると、質量数が100以上のターゲットでは、生成核種の収量の観点で、この方法が優位であることが示唆されている。従って、質量数が100以上のターゲット(Mo, Pd, Sm, Hf, Os)には、電子線を直接照射し、目的核種の製造量を見積もる。そのためのターゲット直接照射装置(電子線直接照射・制動放射線発生及びターゲット放射化装置)は準備している。 ・目的の放射性核種を薬剤として開発するためには、照射後の各金属ターゲットから目的核種を分離する必要があるため、平成28年度に製造したRIの分離精製方法を検討する。
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