研究課題/領域番号 |
16K15587
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
藤井 博史 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 分野長 (80218982)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | センチネルリンパ節 / 免疫応答 / 小転移病巣 / サロゲートイメージング / 胚中心 |
研究実績の概要 |
多くの癌で所属リンパ節の転移状態が重要な予後因子になる。したがって、リンパ行性転移が初発するセンチネルリンパ節(SLN)内の転移状態を生体内で診断することができれば、より低侵襲ながん治療が可能となる。SLN内の小転移病巣の直接的な描出が容易でないため、間接的に転移病巣を診断する方法を探索し、SLN内の多くを占める非がん部における免疫細胞の変化、特にB細胞が形成する胚中心(GC)が有力な候補となる可能性が高いことを見いだした。 平成28年度は、このGC及びGCを構成するB細胞に対し、がんに特異性がある事を示すイメージングターゲットの探索ならびに、その絞り込みを免疫組織化学的解析により行った。B16悪性黒色腫細胞株-C57BL/6マウスモデルにおいて、細胞株の腫瘍マーカーであるMelan-AとGC/GCB細胞の共局在性を調べたが、コントロールとの差異を見いだす事が難しかった。そこで、蛍光タンパク質(tdTomato)を強制発現したEMT6乳がん細胞株-BALB/cマウスモデルで検討を進めたところ、蛍光タンパク質が集積した部位でGCの形成が確認され、さらに抗体の親和性の成熟に関与する抗体遺伝子改編酵素(AID)の発現も確認できた。一方、がん細胞移植後一週程度のSLNではGC形成は確認できたものの、蛍光タンパク質およびAIDは検出できなかった。このことから、PNAやGL-7などのGC/GCB細胞の既知のマーカー及び抗体とAIDを同時に描出する事でがんの転移状態の診断ができるのではないかと考えられた。また、前述のB16悪性黒色腫モデルでは選択した免疫組織学的染色法に問題があることが判明したため、現在改善を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
悪性黒色腫移植・乳がん細胞株移植のいずれのモデルにおいてもGC形成およびGCB細胞が腫瘍細胞の移植後の時間経過に従い増加する事が認められた。これらのモデルのうち、蛍光タンパク質tdTomatoを安定発現させた乳がん細胞株を使用した転移モデルにより、形成されたGCの辺縁洞側に蛍光タンパク質の集積が観測され、そのGC中のGCB細胞では抗体遺伝子改編酵素(AID)の発現が確認された。従って、がん細胞由来抗原がGC形成を惹起しGCB細胞の活性化と関連している事が示された。また、GC形成は蛍光タンパク質の集積やAIDの発現に先行して生じうる事も示された。これらの結果から、GL-7やPNAなどのGCB細胞の既知マーカー/抗体とAIDを同時にイメージングターゲットにする事で、転移の状態を診断できる可能性が示された。この結果は、AID同様GCB細胞のマーカーである転写因子Bcl6の利用も期待できる事を示唆する。その一方で病理組織画像の収集が進んでおらず、当初計画していた人工知能画像分類技術の活用には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
GCマーカーであるGL-7やPNAなどとGCB細胞が抗原に対して活性化している事を示すAIDやBcl6を標的として、転移との相関性を調べ、転移診断に向けた生体内イメージング法の開発を目指す。転移との相関性に関しては、積極的に人工知能画像分類技術などを利用する事を考える。また生体内イメージングには抗体工学や、リポソーム等のナノパーティクルを利用し、RIやインドシアニングリーン(ICG)、さらには長波長近赤外光線を利用したイメージングを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した標的分子の免疫学的手法や分子生物学的手法を用いた実験に、研究室に保有している試薬等を利用することができたため、用いた抗体や反応試薬の使用量が予定よりも少なくて済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も引き続き、標的分子の免疫学的手法や分子生物学的手法、および、遺伝子工学的手法による解析やイメージングプローブの作製のため、抗体や反応試薬、合成オリゴヌクレオチドなどに使用する。また、これらの研究で使用する動物購入費として20万円、トレーサー及び試薬費用などで30万円以上が必要となる。
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