放射線同位体標識sgRNAはCas9タンパク質と複合体を形成しており、通常のRNAに比べ生体内での安定性は高いと思われるが、in vivoの場合はin vitroの場合に比し安定性が低くなる恐れもある。予備実験によると、標識sgRNAのドラッグデリバリーシステムとしてはアテロコラーゲンを用いた方法が適すると考えられた。まず、その手法の最適な条件設定を解明し生体内における安定性と安全性の向上を目指した。 平成28年度・及び29年度で開発した方法で得た標識sgRNA-Cas9タンパク質複合体について、HER2のような癌細胞に高発現している遺伝子に特異的に結合する能力のあるよう事前に設計することを試みた。しかしながら、この設計に思ったより難渋し、実験計画の大幅な遅れをきたした。また、この標識sgRNAをトランスフェクション試薬(アテロコラーゲン等)により処理しsgRNAの生体内での安定性を向上させ、マウスに投与しそのsgRNAの体内分布を決定する予定であったが、マウス投与前に行ったin vitroの実験で十分な安定性を得ることは難しかった。よって、標識sgRNA-Cas9タンパク質複合体をそのまま坦癌マウスに投与することとした。投与後、マウスを解剖し、各臓器の放射能カウントを測定したが、期待したほどは癌の放射能カウントが高くなく、sgRNAの生体内での安定性が低いか、もしくは標識sgRNAの設計が不十分であったことが要因であると考えられる。 尚、β線放出核種である64Cu標識sgRNAについては、他施設からの64Cuの供給が滞ったためこれらを用いた実験は断念することとなった。
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