研究課題/領域番号 |
16K15589
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川口 義弥 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (60359792)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 膵癌 / 細胞非自律的腫瘍化 / ケモカイン / 細胞競合 |
研究実績の概要 |
キメラマウスを用いた細胞非自律的腫瘍化の証明とメカニズム解明: タモキシフェン誘導性に変異型Kras/P53を発現し、なおかつPdx1を欠失させ、Xgal陽性としてlineage traceできるES細胞(Ela1CreER;LSLKrasG12D;LSLTrp53R172H/wt;pdx1flox/flox;ROSA26r)を、すべての細胞がEGFP陽性となるCAG-CAT-EGFPマウス(Kras/P53/Pdx1はすべて正常型)から得た胎盤胞にinjectionしてキメラマウスを作成し、3週令でタモキシフェンを投与した。その結果、EGFP陽性細胞が細胞非自律的にADM, PanINを経てPDACの構成成分となることを証明できた。Pdx1ノックアウトを行わない場合は、上記細胞非自律的腫瘍化はほとんど起こらなかった。 マイクロアレイ解析および免疫染色の結果から、ケモカインCLXL13とその受容体であるCXCR5が最初にinitiator cell、次いで周囲のEGFP陽性細胞に発現することをつきとめた。つまり、最初はautocrine 機構を介してinitiator cell自身に働きかけ、その後周囲細胞のCXCR5の発現を誘導して増殖的に作用すると考えられる。ここで重要なのは、CXCL13が強力なB cell attractantである点である。実際、免疫細胞が腫瘍に浸潤し、1ヶ月後にはCXCL13以外の複数のケモカイン/サイトカインの発現が上昇するchmokine stormの状態となることが確認された。 CXCL13中和抗体投与で、細胞非自律的腫瘍化がほぼ完全に消失したことから、CXCL13-CXCR5 axisが上記現象の責任シグナルであることを証明できた。では、「なぜPdx1欠失がCXCL13-CXCR5 axis の活性化を引き起こすのか?このような細胞非自律的腫瘍化は、Pdx1欠失モデルだけの現象なのか?」が次の問題となる。Pdx1欠失はミトコンドリア障害を引き起こすことが分かっており、現在、薬剤投与によるミトコンドリア障害で同様の現象が起こるかどうかを検証中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画した細胞非自律的腫瘍化の証明だけでなく、本モデルにおける細胞非自律的腫瘍化現象のメカニズム解析として、具体的なケモカインシグナルを同定し、(計画を超えて)中和抗体投与実験でそれを証明した。さらに、Pdx1欠失モデルだけでなく、「がん細胞の代謝ストレスが、がん微小環境を改変して細胞非自律的腫瘍化を引き起こすのではないか」と考え、萌芽研究で得られた知見を、癌腫一般における普遍的概念へと高めつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、本モデルでは、CXCL13/CXCR5 axisの活性化によって細胞非自律的腫瘍化を引き起こすことが分かった。私たちは、この現象はPdx1欠失モデルだけの特異的な現象ではなく、がん細胞の代謝ストレスががん微小環境を改変することで細胞非自律的腫瘍化を引き起こし得ると考えている。Pdx1欠失はミトコンドリア障害を引き起こすことが分かってきており、現在、膵腺房細胞のミトコンドリア障害を来す薬剤として知られるL-lysine投与モデルで同様の現象が起こるかどうかの検証に入っている。この実験によって、“代謝ストレスによる細胞非自律的腫瘍化”が一つの概念として確立できた場合、臨床で行われている化学療法/放射線療法の抵抗性には、がん幹細胞クローンの治療抵抗性だけでなく、細胞非自律的腫瘍化現象の活性化が寄与する可能性を示唆する。当初計画書の2年目の項目「正常細胞由来であるEGFP細胞が新たな腫瘍造成能を獲得しているか?」と合わせて研究を推進してゆく方針である。
|