研究実績の概要 |
本研究の目的は、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に対して核酸治療剤を開発することである。2%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を9日間与えることにより腸炎マウスモデルを作成した。DSS投与によってマウスの体重減少や腸管長の短縮、腸管壁の炎症指標の増加が引き起こされるが、スーパーアパタイトに搭載したmiR-29b、あるいはmiR-29aを、マウスに全身投与することで、正常腸管を維持できた。 miR-29bにAlexa647を接合し、スーパーアパタイトに内包させて全身投与すると、炎症腸管の粘膜固有層・下層の少数~中等度数の細胞に赤色蛍光を認めた。B cell, CD4+cell, CD8+cell, マクロファージ、好中球、樹状細胞のそれぞれに対する特異抗体を用いて各細胞の染色を追加して核酸との共在を調べたところ、大部分の核酸はCD11c陽性の樹状細胞に取りこまれていることが分かった。マウスに存在しない人工配列を設計して同様の実験を行ったが、やはり樹状細胞への集積が確認され、microRNAの種類によらずスーパーアパタイトは炎症腸管の樹状細胞に核酸を送達する機能を有することが分かった。 DSSによるマウス腸炎モデルでは、樹状細胞がIL-6やTGF betaを産生し、Th17細胞を誘導すること、更にIL-23産生がTh17細胞を病原性Th-17に活性化させることが知られている。樹状細胞に送達されたmiR-29a, bは、これらの分子発現を減少させ、腸管組織全体のマイクロアレイ解析によって下流のインターフェロンシグナル伝達経路が阻害されていることが明らかとなった。以上の所見は、 DSS投与後に発動する樹状細胞を起点とする初期免疫応答がmiR-29によって阻止され、それに続く炎症カスケードが抑制されることを示唆している。以上の所見は特許出願、論文投稿の予定である。
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