研究課題
膵癌は消化器癌の中で最も予後不良で、初診時には多くが進行癌であり、その5年生存率は5%前後である。しかし、Stage I症例では5年生存率は80%であり、膵癌の早期発見の重要性は強調してもし過ぎることはない。本計画では、挑戦的萌芽研究として「匂い」を科学する斬新な技術により早期膵癌を簡便に診断する方法を開発研究する。匂いの技術は、寄生虫の一種である線虫の嗅覚を応用した方法を用いる。膵癌の予後が悪い原因の1つとして、膵癌は早期診断が困難である点が挙げられる。歴史的にCEA、CA19-9といった糖鎖抗原に対する腫瘍マーカーが汎用されているものの、その感度並びに特異度は決して満足出来るものではなく、またStage Ⅰ膵癌における感度は非常に低いのが現状である。従って、早期膵癌の診断を可能とする新規バイオマーカーの樹立が世界的に求められている。さらには、既存のマーカーと比較してより安価であれば、糖鎖マーカーに代わる次世代型のマーカーとなりうることが想定される。これまでの内外での研究によって、麻薬犬の嗅覚を応用することで、様々な種類の癌を探知可能であることが報告されている。確かに、イヌの嗅覚はヒトの100万~1億倍と言われており、実際、訓練により麻薬犬は癌の微妙な臭いを感じとるようである。しかし、麻薬犬の訓練に手間暇コストが掛かるために、現時点では広く日常診療まで応用されていないのが実情である。一方、協働して研究している広津らの報告によると、線虫も近年の探索的研究により癌を診断可能(N-NOSE法)であることが示されている。N-NOSEは初めからヒトの尿検体を用いてアッセイされたため、マウスモデルにおいても同様の走行性を呈するか否かについてはこれまで報告されていない。本研究では、この新規診断方法がマウスにおける膵腫瘍自然発生モデルマウスにおいて再現可能か検討することを目的としている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では大阪大学消化器外科が中心となって収集を進めている膵癌症例の体液(唾液、尿、血清)を線虫の匂いのシステムに乗せてその有効性を科学的に検討するのが目的となる。現在までに膵腫瘍自然発生モデルマウスとして知られるKRASG12D変異マウスの実験群において、実際に腫瘍形成を認める事を肉眼的並びにヘマトキシリン-エオジン染色を用いて組織学的に確認した。一方、コントロールマウスでは腫瘍形成を認めなかった。このことより、自然発生モデルマウスで実際に腫瘍形成を認める事を確認した。また、このマウス尿を希釈し、N-NOSEのマウスモデルにおける再現性を解析した。その結果、マウス尿に対しても走行性を示す傾向が得られた(協働研究者広津らによる解析)。また、c-Metノックアウトマウスの尿においても同様の解析を施行したが、線虫に対する走行性に有意差を認めなかった。これは癌遺伝子に変異がある場合に線虫がこの遺伝子変異を感知可能であることを示唆する。マウスモデルにおいての有効性を再現可能であることを示したので、下記の通り区分を選択した。
作年度は、膵腫瘍自然発生モデルマウスの尿を用いても、N-NOSE法による再現性を確認した。これらの知見により、異種移植モデルを用いても同様の走行性を示す事が期待される。さらに、マウスモデルでも解析可能であれば、様々な病期の膵癌の臨床検体を用いて病期別での感度および特異度を解析する。膵癌における正確度がある一定以上のレベルであれば、最終的に早期膵癌に対する感度と特異度を確認し、既存のマーカーと廉価性について検討する。また、マウスモデルでも癌の臭いに対し走行性を呈した場合は、ヒトと同様にマウスモデルでもN-NOSEが有効であれば、将来的にマウスモデルを手始めに、嗅覚物質の同定を進めていく。本方法の先鞭的な基礎研究は、発生生物学的な線虫の嗅覚臓器研究としてRas-MAPK経路の関与が既に明らかとなっている。また、既存のマーカーとコストパフォーマンスについても検討する。本方法では、大きな意義を有するスクリーニングを簡便かつ廉価に実施することが可能となることが見込まれる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 38415
10.1038/srep38415.
巻: 6 ページ: 36289
10.1038/srep36289.