研究課題
本研究は、癌遺伝子MYCにより制御され、JMJDファミリーに属するヒストン脱メチル化酵素NO66(別名MAPJD)の大腸癌をはじめとする消化器癌の癌進展に果たす役割を明らかにし、治療標的としての重要性を示すことを目的としている。平成28年度は、NO66の大腸癌細胞株における機能解析を中心に行ってきた。レンチウイルスによる強制発現、ノックダウンの実験系を用いて、NO66の発現を操作することで、細胞の表現型に与える影響を調べ当該分子が細胞の増殖・浸潤能や細胞周期制御、抗アポトーシスに関わっていることを示した。抗アポトーシス作用は、臨床上の問題となる薬剤耐性に関わる機構としても重要で、これまでの抗がん剤と当該分子に対する標的治療を併用することで、癌根治に向けた重要な治療戦略となり得る。また、本研究では、癌組織への薬剤選択性を実現することを目標としてきた。従来のエピゲノム治療標的は、正常組織にも発現が確認され、生理的に重要な役割を果たしていることから、腫瘍への薬剤の選択性が得られないことが大きな課題であった。NO66は、癌遺伝子MYCの制御の元にあることが、過去に報告されており、臨床検体において癌特異的な発現が確認されれば、癌治療の標的として有効な分子であることを明らかにすることができる。これまでの研究により、大腸癌臨床検体の正常部と癌部の比較において癌部特異的なNO66の高発現が確認され、NO66が治療標的として、腫瘍選択性を実現できる有力な候補分子である可能性が示唆される結果となった。今後はさらに症例を増やし、臨床病理学的因子と当該分子の発現の関連を調べることを計画している。
2: おおむね順調に進展している
レンチウイルスによるNO66のノックダウン並びに強制発現細胞株を作成し、癌の増殖、浸潤能、アポトーシスへの関わりを調べ、NO66が癌の進展や、抗癌剤に対するアポトーシス耐性に関わっていることを明らかにした。さらに細胞周期への関わりに関しては、NO66のノックダウンにより細胞のS期延長が確認され、G1-Sへの移行が妨げられることがわかった。これはNO66が細胞周期に関わるc-MYCにより制御されていることと矛盾しない結果である。さらにデータベースを使用したパスウェイ解析からは、NO66の発現が、MYCやその下流の遺伝子群の活性に関連していることがわかった。さらに、NO66の標的遺伝子群は、PRC2複合体を始めとするポリコーム遺伝子群の標的とその多くを共有する可能性が示され、ゲノム上での両者の相互作用の可能性を示唆する所見が得られた。一部の大腸癌臨床検体での免疫組織学的染色では、腫瘍部において、正常部より有意にNO66の高発現が確認され、創薬標的とした場合に、正常組織への障害を最小限に抑えることができる可能性が示された。
消化器癌臨床検体とそれに対応する正常組織において免疫組織学的染色をさらに集積し、臨床病理学的因子、予後、化学療法耐性と、この蛋白発現との関連を解析する予定である。In vitroの実験で実証されている浸潤能への関わりを、腫瘍の先進部と非先進部の比較、あるいは転移陽性症例と陰性症例との比較から、明らかにすることが可能である。これらのデータの蓄積によりNO66の発現と発癌・癌進展との関連が明らかとなれば、これを癌の早期診断や、化学療法の効果判定のための有用なバイオマーカーして活用することが可能である。これらが予定通り進捗すれば、NO66による酵素活性をin vitro で評価するFRETのアッセイ系の構築を目指し、薬剤スクリーニングに向けた準備を進める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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