研究課題
膵臓の慢性炎症は膵癌発癌・進展と深く関わっていることが知られている。好中球リンパ球比(NLR)は炎症マーカーの一つであるが、私たちは膵管内乳頭粘液腺癌(IPMC)症例においてNLR が有意に高値であることを報告している。また膵腫瘍においてNLR 高値症例では膵癌が多く、NLR 高値が膵癌診断のsupportive marker となること、膵内分泌腫瘍においてNLR が悪性度と相関し、NLR 高値症例では低悪性度でも術後肝転移症例が多いことを明らかにした。一方で、癌幹細胞は腫瘍階層性の頂点にあり治療抵抗性や再発に深く関わるため、私たちも癌幹細胞マーカーの機能解析をおこなってきた。これらの研究成果を背景として、本研究では慢性炎症を制御するアラキドン酸カスケードと癌幹細胞に注目した解析を開始した。本年度の解析結果からアラキドン酸代謝物分解酵素である15-PGDH の発現は、癌部では発現が低下しており膵癌幹細胞マーカーのALDH1(Aldehyde dehydrogenase 1)は15-PGDH 発現と逆相関関係にあることを見出した。さらにALDH1 高発現症例は全生存期間、無再発生存期間が有意に短縮することを認めた。さらに癌細胞内へのアラキドン酸代謝物の蓄積が癌患者の予後を悪化させる分子メカニズムの詳細をin vitro解析により示し、生体レベルでの解析として膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)を形成するLox-STOP-Lox(LSL)-KrasG12D;Ptf1aCre/+(KrasG12D)マウスをベースとして15-PGDH-/- KrasG12Dマウスを作製した。
2: おおむね順調に進展している
熊本大学の臨床および基礎研究室、それぞれの研究組織が得意とする研究手法を活かした共同研究を展開する事が出来ている。既にin vitroでの解析、臨床検体を用いた予後解析、CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子改変マウスの作製まで終了している。本年度、連携研究者である大村谷准教授が兵庫医科大学遺伝学教室の教授として転出されたが、当初の計画に変更は無く、現在も連携して共同研究を進めている。また、癌進展に付随する慢性炎症に注目した関連研究テーマの研究成果を消化器病学のトップジャーナルに報告した(Ishimoto et.al. Gastroenterology 2017 in press)。本研究の成果は日本国内の複数の全国学会、シンガポールで開催されたヨーロッパ腫瘍学国際学会、アメリカ癌学会総会にて報告をおこなった。現在、これまでの本研究成果をまとめて腫瘍学トップジャーナルへの投稿準備を進めている。
膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)を形成するKrasG12Dマウスと本研究において作製した15-PGDHノックアウトマウスの交配を行なった結果、プロスタグランディンE2の蓄積に伴い腫瘍腺管ならびに腫瘍の著明な増大を示した。現時点では、まだ腫瘍の表現型以外に腫瘍増大につながる分子論を説明できるデータを得ていないが、in vitroの解析においてはプロスタグランディンE2の蓄積に伴いALDH1陽性な未分化な腫瘍細胞の増殖、ALDH1発現に依存的な自己複製能関連遺伝子の発現上昇を確認している。今後、これらの分子メカニズムが遺伝子改変マウスの腫瘍においても存在するか否か更なる検討をおこなっていく。
医局保管の消耗品を使用することが出来たため。
平成28年度の実験計画を推進し、今後は分子メカニズムが遺伝子改変マウスの腫瘍においても存在するか否か更なる検討をおこなっていくため、各種実験消耗品及び、実験動物の購入・飼育費に充てたいと考える。また、最終年度でもあるため、研究成果発表にかかる出張旅費にも充てたい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件)
Gastroenterology
巻: in press ページ: in press
10.1053/j.gastro.2017.03.046.
Oncotarget
巻: 7(15) ページ: 19748-61
10.18632/oncotarget.7782.
Clin Cancer Res
巻: 22(22) ページ: 5574-5581
10.1158/1078-0432.CCR-16-1786.