研究課題
進行再発がん患者により有効な治療を行う為、抗がん剤を効率的にがん細胞の標的分子に届け、 腫瘍周囲微小環境を適切に制御する手法~Drug-Delivery System (DDS)の開発が求められている。 しかし、腫瘍組織内の詳細な薬剤分布や、腫瘍細胞や各種の周囲正常細胞毎の薬剤分布、或いは 各細胞内の薬剤動態を検討した報告は無い。本研究では、Ⅰ.PDX モデル等を用い、腫瘍組織で の抗がん剤の細胞毎の分布(腫瘍細胞や正常細胞への分布の状態、腫瘍の部位や壊死等による薬 剤分布の相違)を明らかにし、Ⅱ.腫瘍細胞内の薬剤動態を測定し、組織や細胞での薬剤分布不 均等から来る薬剤抵抗性を無くし、より抗がん剤を有効に腫瘍組織に届けるための基礎的解明を行う。特に本研究では消化管間質腫瘍(GIST)とその治療薬イマチニブをモデルとして、コントロールとして殺細胞性抗がん剤(ダウノマイシン)を用いて、腫瘍細胞や正常細胞での薬剤分布を明らかにする。具体的には、薬物(イマチニブ、ゲフィチニブ、ドキソルビシン)のそれ自体が持つ蛍光をsuper-resolution confocal live imaging microscope (SCLIM)と質量顕微鏡で、それぞれ細胞内と組織(がん組織と正常組織)のへの薬物分布と濃度を直接測定を試みる。また、慢性実験では28 日間イマチニブを経口投与、投与 28 日目の組織を採取、GIST 細胞と腫瘍周囲細胞(Tr eg 等)への組織学的影響、腫瘍細胞とそれぞれの腫瘍周囲細胞分布変化、表面マーカーの変 化、各細胞部位の薬剤分布を測定し、薬剤の到達度(分布)と腫瘍・腫瘍周囲細胞の変化を明ら かにする。更に、これらが上手く稼働しない場合は、腫瘍細胞内薬物動態に関してはTur n-on システムでの細胞内薬剤動態測定を予定する。
2: おおむね順調に進展している
イマチニブの蛍光とイマチニブにより強い蛍光残基を付けた修飾イマチニブを合成し、そのKIT阻害効果と細胞内の動態を細胞培養株をsuper-resolution confocal live imaging microscope (SCLIM)を用いて測定した。イマチニブの蛍光は弱くSCLIMでは測定できなかったが、蛍光残基を付けた修飾イマチニブでは細胞内薬物トレースが可能であった。同時に、イマチニブに細胞内で蛍光残基を付けるTurn-on システムの開発を行い、SCLIMで測定可能であることが確認された。質量顕微鏡測定による腫瘍組織内薬剤分布測定に関しては、ヌードマウスに細胞株を植え付け、その後にドキソルビシンを投与し、ドキソルビシンの正常組織、腫瘍組織への分布を測定できる系を確立に関し、nu/nu マウスに GIST 細胞株(GIST-T1)を移植しイマチニブを連続的に経口投与する研究は、動物の実験系を確立したところである。
平成29年度は質量顕微鏡測定による腫瘍組織内薬剤分布測定に関しては、PDX モデルを用い実際に経管的にイマチニブを、1回投与時と連続28日投与を行い、腫瘍並びに周辺正常組織を切り出し急速凍結して連続切片を作成 ⅰ.HE 染色、免疫組織染色を行い質量顕微鏡の蛍光測定で細胞を同定し、その部分の薬剤濃度 を測定する。質量顕微鏡のマス測定では 5~10μm 毎に イマチニブとその代謝物の濃度分布を測定する。 可能であれば、EGFR変異陽性肺がんモデルでゲフィチニブを投与後、ゲフィチニブの組織での到達度が治療後 EGFR 変異肺癌細胞遺残 に関与するかを明らかにする。イマチニブの細胞内動態の測定は、イマチニブ自体の持つ蛍光強度が弱いことからSCLIMでの測定は困難と判断した。そこで、1.二光子法が完成すれば二光子法で、そうでない場合は、蛍光残基を付けた修飾イマチニブと28年度に確立したturn-onシステムを用いたイマチニブ細胞内分布測定を行う。
予定した研究が年度内に行われなかった為。
平成29年度の試薬購入に使用
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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