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2017 年度 実施状況報告書

TREX2複合体機能不全の誘導は抗がん剤感受性亢進の標的になるのか

研究課題

研究課題/領域番号 16K15603
研究機関愛知県がんセンター(研究所)

研究代表者

権藤 なおみ  愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍免疫学部, 研究員 (30743356)

研究分担者 桑原 一彦  新潟大学, 医歯学総合研究科, 助教 (10263469)
葛島 清隆  愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍免疫学部, 部長 (30311442)
岩田 広治  愛知県がんセンター(研究所), 遺伝子医療研究部, 研究員 (90295600)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード乳癌 / 薬剤抵抗性 / TREX2
研究実績の概要

DSS1はBRCA2安定化因子として同定されている。DSS1が相同組換えに重要であるという既報の結果を考え合わせ、DSS1発現低下がBRCA2発現低下を介して化学療法感受性を亢進させる可能性が考えられた。そこでsiDSS1処理とsiBRCA2処理を種々の乳癌細胞株で行い、ドキソルビシン、パクリタキセル、シスプラチンなどを用いて化学療法感受性の亢進を比較検討した。siDSS1処理細胞株では薬剤感受性が亢進したが、siBRCA2処理細胞株においては薬剤感受性に変化を認めず、DSS1発現低下による薬剤感受性亢進はBRCA2非依存的なメカニズムによることが考えられた。
DSS1は26Sプロテアソーム構成分子としても同定されている。そこでプロテアソーム阻害剤として汎用されるMG132で処理した乳癌細胞において、抗がん剤の効果に影響がみられるかを検討した。プロテアソーム阻害剤は薬剤感受性には大きな影響を与えず、DSS1発現低下による薬剤感受性亢進はプロテアソームの機能とは相関しないと考えられた。
さらにDSS1はTREX2複合体構成分子であるため、他のTREX2複合体構成分子の機能不全が同様に化学療法感受性を亢進させるのかを検証した。TREX2の構成分子であるPCID2ノックダウン乳癌細胞株ではDSS1ノックダウン同様化学療法感受性の亢進を認めた。この結果はTREX2複合体の機能不全によるRループ形成が薬剤感受性に関わることを示唆した。名古屋市立大学乳腺外科の乳癌患者コホートを用いた、PCID2の発現解析でもPCID2高発現群は低発現群とくらべて予後不良の傾向をみとめ、TREX2複合体が薬剤感受性に影響を与える可能
性を支持した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

DSS1発現低下がBRCA2発現低下を誘導し化学療法感受性を亢進させる可能性の検証は概ね順調に進み、様々な角度から検討した結果このメカニズムはBRCA2非依存性であることが判明した。本年は薬剤感受性の評価として主としてFACSによる死細胞の検出を用いたが、他のアッセイによる確認も必要であり、薬剤感受性を解析する時に汎用されるclonogenic survival assayの予備実験も終了し、FACSと同様の結果が得れれた。
最近DSS1がユビキチン受容体であるという結果が報告されたため、ユビキチン結合能を失ったDSS1変異体をレトロウイルスベクターにより安定発現株を樹立した。しかし、これらの樹立した細胞株は抗がん剤に対する感受性自体を喪失してしまい、安定発現株を樹立する際に用いたPuromycinによる薬剤選択が薬剤抵抗性を誘導した可能性が考えられた。そこでこの解析に関しては方針変更を余儀なくされ、プロテアソーム阻害剤を用いてDSS1の薬剤感受性への影響を検出した。その結果プロテアソーム阻害剤の有無で薬剤感受性に変化はみられず、DSS1発限低下による薬剤感受性にはプロテアソ=ムの機能自体は関係ないことが示唆された。DSS1はTREX2複合体を構成する一員であるので、PCID2のノックダウン細胞や過剰発現細胞を用いて化学療法感受性の亢進を検討した。
その結果、DSS1同様にPCID2の発現により薬剤感受性に影響がみられた。TREX2複合体機能不全は転写共役型DNA傷害を誘導するため、このことが薬剤感受性亢進に影響を与えている可能性がある。

今後の研究の推進方策

一年目の研究からDSS1発現低下による薬剤感受性亢進はBRCA2非依存的であること、さらに他のTREX2構成分子であるPCID2ノックダウン細胞株でも化学療法感受性の亢進を認め、TREX2機能不全が薬剤感受性亢進に重要な役割を果たす可能性が考えられた。これまでの出芽酵母を中心とした研究から、TREX2複合体は転写共役型DNA傷害を誘導し、特にRループ形成がDNA傷害誘導に重要であると考えられている。このループ構造は、DNA-RNAハイブリッドを特異的に認識すると考えられるモノクローナル抗体S9.6を用いて検出することが可能である。DSS1あるいはPCID2の過剰発現株が薬剤抵抗性を示すことより、これらの細胞におけるRループ形成の変化を確認することで薬剤抵抗性におけるRループ形成の関与が明らかになる。またTREX2複合体とは別にmRNA核外輸送にはTHO複合体が関与するが、その構成分子THOC1のノックダウン細胞においてもRループ形成が誘導されることが知られている。乳癌細胞株をsiTHOC1で処理し、DSS1やPCID2同様化学療法感受性が亢進する場合はRループの関与が考えられる。この解析結果は薬剤感受性亢進のメカニズムを上で重要であり、もしRループが薬剤感受性亢進に重要であれば、これが抗がん治療標的となる可能性があるが、Rループと無関係な場合は転写共役型DNA傷害が薬剤感受性に関わるという仮説が成立しないため、この場合TREX2の新規の機能を考える必要がある。何れにせよ本解析の結果は、DSS1もしくはTREX2複合体が抗がん治療標的として有用であるかという問題に対して極めて重要である。

次年度使用額が生じた理由

平成28年度の研究の柱にDSS1のユビキチン結合を喪失した変異体の解析をあげて解析したが、レトロウィルスベクターを用いた安定発現株の樹立のセレクションに用いたピューロマイシンの影響で乳癌細胞株が薬剤抵抗性になるという問題が起き、研究の方向転換をした。そのため、DSS1変異体の樹立およびin vitroの解析に使用する予定の研究費を平成29年度に予定していた別の解析で使用したが、これはすでに実験系が確立していたため、予想外に研究費を使用しないで遂行することができた。

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公開日: 2018-12-17  

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