研究課題/領域番号 |
16K15605
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小田 竜也 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20282353)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 膵癌 / 糖鎖 / レクチン / 腹膜播種 / 癌幹細胞 / ドラッグデリバリー / 薬剤担体 / トキシン |
研究実績の概要 |
癌細胞も含めた全ての細胞の表面は、糖鎖修飾を受けた脂質2重膜や膜蛋白で覆われている結果、細胞の最外層は糖鎖で覆われていることになる。我々は膵癌幹細胞の糖鎖発現解析の結果、膵癌細胞には特異的な糖鎖Xが発現していることを同定し、更にその糖鎖構造に特異的に反応する糖結合タンパク「レクチンA」を同定した(特許申請済)。レクチンを薬剤の担体として用いて、癌細胞特異的な糖鎖をターゲットとして膵癌腹膜播種の制御実験を行った。本年度は、まずレクチンA-PE(緑膿菌外毒素)を本実験に使用するのに安定的に供給できるシステムを構築することに成功した。次に6種類のヒト膵癌細胞株に対するレクチンAの反応性を調べ、同じ膵癌細胞株でも臨床膵癌に近い組織形態をマウス腫瘍で再現する細胞株で強い反応性が確認できた。また、膵臓がんの手術検体を使用し、約70検体の臨床膵癌の切片へのレクチンAの反応性を免疫組織学的に確認し、膵臓がんに豊富にみられる間質には反応性はなく、癌細胞に特異的に反応性を有することがわかった。またIn vitroでのレクチンA-PEの殺細胞効果をMTT法で確認し、レクチンAに特異反応する糖鎖発現の有無で、殺細胞効果がどの程度異なるかを調べ、50%阻害濃度(IC50)をそれぞれの細胞株で算定した。また、マウスモデルでの抗腫瘍効果検証実験に備えて、レクチンA単独、レクチンA-PEをそれぞれ野生型マウスに投与し、半数致死量(LD50)を算定し、それぞれの投与したマウスでの組織学的な毒性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レクチンAにこれまで癌治療研究で使用されてきた歴史がある緑膿菌外毒素を融合し、まず、癌治療に十分に薬剤として安定的に供給できるシステムを構築した。レクチンAと緑膿菌外毒素(PE)の融合体(レクチンA-PE)のコンストラクトを大腸菌内で発現し、蛋白を精製し、高純度の試薬として調整することに成功した。次に代表的な6種類の膵癌細胞株に関してレクチンAの反応性を調べたところ、マウスに移植した腫瘍において臨床膵癌に近い形態を再現する細胞株に特異的に反応し、その他の臨床膵癌の再現性が乏しい癌には反応性が見られなかった。臨床膵癌検体の組織切片をレクチンAにHRPをコンジュゲートしたプローブで組織染色を行ったところ、膵癌の組織に豊富にみられる間質(線維芽細胞)には染色性はなく、全例で膵癌細胞に反応性を有することが分かった。そこで、レクチンA-PEによるIn vitroでの殺細胞効果を確認すると、レクチンAに反応性がない細胞株ではIC50=16,600 pmol/Lであったのに対し、反応性を有する細胞株ではIC50=0.0195pmol/Lと算定され、特定の糖鎖を持つ細胞株では極めて高い殺細胞効果があり、これは従来の抗体をキャリアーとしたADC(Antibody Drug Conjugate)と比較して約1000倍強い活性であることが分かった。In vivoでの実験に備えレクチンA単体および、レクチンA-PEの毒性実験、野生型マウスへの半数致死量(LD50)を算定したところ、レクチン単独では15µg/mouseまで毒性が見られず、レクチンA-PEでは静脈投与、腹腔投与ともに約7µg/mouseと算定され、投与群での毒性を組織学的に確認した。100%死亡投与量を投与した群では、マウスの消化管上皮(胃、小腸、大腸)の脱落、腎糸球体障害、膵腺房細胞の脱落などが確認され、現在投与量ごとに詳細な毒性を調査中である。
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今後の研究の推進方策 |
レクチンA単独、レクチンA-PE投与による詳細な毒性、および肝機能障害、腎機能障害の検証を継続し、抗腫瘍効果が認められる濃度と毒性の出現する濃度の差(Therapeutic Window)を同定する。その後、研究計画に従い、【A:薬剤レクチン腹腔投与における薬物動態の検討】蛍光標識、もしくはTagなどで標識したレクチンを投与し、投与後一定時間後に、臓器を摘出し、免疫組織学的に各臓器への分布を確認する。【B:レクチンA-PEによる皮下結節モデルでの抗腫瘍効果の確認】前年度の研究で得られた、ヒト膵癌細胞株へのレクチンAの反応性調査をもとに、レクチンAに高い反応を示す細胞株、反応性がない細胞株それぞれを用いて膵癌細胞株をマウスに移植した皮下結節モデルを作成し、腫瘍局所に投与し抗腫瘍効果、生存期間の延長効果を確認する。また、同様の細胞株をマウスに移植後3日目よりレクチンA-PEを投与し、腫瘍径を計測して腫瘍抑制効果を評価する。【C:レクチンA-PEによる腹膜播種抑制の検討】免疫不全マウスに上記で用いたヒト膵癌細胞株を腹腔内に注射し、膵臓がんの腹膜播種モデルを作成する。無治療では血清腹水と臓器不全により4~6週で死亡することが分かっている。このモデルに対し、レクチンA-PEを腹腔投与、血中投与することで腹膜播種を起こした腫瘍細胞の制御効果、腹水の評価、転移制御効果、生存期間をそれぞれ解析する。投与経路別に、生食投与群(コントロール群)と比較し生存期間の延長効果をKaplan-Meier法で検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で行われる試薬購入費用の中心はレクチン、及び染色における薬剤費である。これまでの当研究室の研究における薬剤を使用することが可能であった。また臨床検体に関して、当附属病院での検体で研究を遂行することができた。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
1)試薬の購入について、本研究で使用するレクチン、標識したレクチン、薬剤レクチンを精製するに必要な試薬一式の他、細胞培養試薬、血清、分子生物学実験に使用する試薬が含まれる。2)対象検体の作成費用として、本研究にて用いる組織アレイ作成、及びプレパラート作成費用が含まれる。3)研究成果の発表にかかる費用について、研究成果の発表には学会発表および論文投稿を予定しており、そのために必要経費として、国内学会参加、国際学会参加費、論文投稿料が含まれる。以上に使用する予定である。
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