研究課題
本研究は、ウイルスゲノム中に癌特異的抗原を発現するように遺伝子改変した腫瘍溶解性ウイルスHF10とウイルスが産生する癌抗原を認識するようにTCR遺伝子改変したT細胞の組み合わせによる新規治療法の開発を目的としている。平成28年度は、癌抗原遺伝子を発現する遺伝子改変HF10の構築を行った。HF10ゲノムのUL43遺伝子座は欠損があるため機能していないことから、この遺伝子座に外来遺伝子を導入することを計画した。外来遺伝子はCMVプロモーターにより発現を制御し、IRESを介してZsGreen1も発現するようにした。CMV promoter derived 外来遺伝子カセットの両端に各500塩基ずつUL43遺伝子と同じ塩基配列を配したプラスミドを構築した。このプラスミドをリニア化して、Vero細胞にHF10ゲノム及びpGuide-itと共にトランスフェクションしCRISPR/Cas9ゲノム編集によりHF10ゲノムへ外来遺伝子を導入した。1%アガロースDMEMを重層し培養後にZsGreen1を目印にプラークをピックアップし、再びVero細胞に感染・ピックアップする操作を数回繰り返し、遺伝子改変HF10の単離を行った。以上の操作により、まずZsGreen1遺伝子のみを導入したGreen-HF10の構築に成功した。PAN02細胞とSCCⅦ細胞に対するGreen-HF10の殺細胞効果を親株HF10と比較した結果、Green-HF10は親株HF10の殺細胞効果を維持していることを確認した。外来抗原遺伝子としてOVAとWT-1を導入した遺伝子改変HF10の構築の完了も目前である。また、pCI-neo-cOVAをPAN02細胞に導入した24時間後、400ug/ml G418を加えて培養し、増殖した細胞を単離してOVAを安定発現するPAN02/OVA細胞を作製した。
3: やや遅れている
遺伝子改変HF10の構築および癌抗原発現細胞の作製は計画通りに行うことができたが、外来遺伝子導入用プラスミドの構築および外来遺伝子が安定的にゲノムに挿入された遺伝子改変HF10の構築・単離にやや時間がかかった。癌抗原特異的なTCR遺伝子改変T細胞の作製までは平成28年度内に着手することができなかったため、やや遅れていると評価した。
癌抗原特異的なTCR遺伝子改変T細胞の作製を直ちに行い、癌抗原遺伝子導入HF10の抗腫瘍効果の検討、さらにキメラ抗原受容体ならびに抗原特異的T細胞レセプターを有する遺伝子改変T細胞との併用効果を検討する。具体的には、癌抗原遺伝子導入HF10(OVA-HF10、WT1-HF10)の感染により、抗原を発現していない腫瘍に対して強い癌免疫を誘導できるか、加えて既に抗原を発現している腫瘍に対して癌免疫誘導を強化することができるか、さらに遺伝子改変T細胞療法との併用効果が認められるかの検討を行う。マウス背部にPAN02/OVA腫瘍またはPAN02細胞を2個移植し、右側のみにHF10、ならびにOVA-HF10またはWT1-HF10を腫瘍内に投与する。また、尾静脈からOVA認識細胞障害性T細胞またはWT1特異的TCR遺伝子改変T細胞を投与し抗腫瘍効果の検討、ならびにTreg、CD4+、CD8+T細胞、マクロファージなど腫瘍内微小環境の検討も行う。OVA認識細胞障害性T細胞はOVA抗原を認識するT細胞レセプターを強制発現したマウス(OT-1マウス)から、CD8ビーズを用いて精製し、刺激・培養したものを用いる。WT1特異的TCR遺伝子改変T細胞の作製方法は、三重大学大学院医学系研究科 遺伝子・免疫細胞治療学講座から供与される予定である。これら遺伝子改変HF10と遺伝子改変T細胞との併用療法のデータをin vitro、in vivoで蓄積し、臨床応用に繋げる。
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Oncolytic Virotherapy
巻: 6 ページ: 31―38
10.2147/OV.S127179
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/intlexch/cancerimmuno/www/achievements/index.html