LC-MS/MS解析の結果大腸癌幹細胞マーカーLgr5に共役する分子としてsyntenin-1を同定した。syntenin-1の高発現が複数のがんおいて予後不良因子となることが報告されているが、大腸癌においてはいまだ報告はない。以下大腸癌におけるsyntenin-1発現の臨床病理学的因子および予後との関連を検証し、その機能解析を行った。 (1)2006年から2009年までに当科で根治手術を施行した連続する139例の大腸癌症例を対象とし、切除標本におけるsyntenin-1の発現を免疫組織染色により2群に分類し、臨床病理学的因子および予後との関連性を調べた。(2)3種類のmicrosatellite stable (MSS) 大腸癌細胞株に、syntenin-1に対するshRNAを導入し増殖能・遊走能・抗癌剤感受性アッセイを行った。 (1)臨床病理学的因子での比較においては高発現群で分化度 (p=0.001) の他に有意な因子を認めなかった。5年全生存率 (overall survival: OS) は低発現群:高発現群=97.8%:63.8%(p=0.001)、5年無再発生存率 (relapse free survival: RFS) は低発現群:高発現群=92.4%:61.7% (p=0.001) で、syntenin-1高発現群で有意に再発率が高く生存率が低かった。多変量解析ではOSにおいてはCA19-9値と並んでの (p<0.0001)、RFSにおいては脈管侵襲と並んでの (p<0.0001) 予後予測因子であった。(2)shRNAでsyntenin-1を抑制すると、増殖能に有意差は認めなかったが、遊走能は有意に低下した(p<0.05)。また、5-FUに対する感受性は有意差を認めなかったが、L-OHPに対する感受性は有意差に上昇した(p<0.05)。大腸癌においてsyntenin-1の高発現はOS・RFSの悪化に関与し、予後予測に有用なマーカーとなりうることが示唆された。また、syntenin-1は遊走能と進行再発大腸癌治療におけるkey drugであるL-OHPに対する薬剤感受性に関与していた。
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