研究課題
我々は既存の抗癌剤への抵抗姓を持つ軟知性消化器癌幹細胞にこれら3種のマイクロRNAを導入するとリプログラミング効果により癌幹細胞はその性質を大きく変え、細胞死または既存の抗癌剤への感受性を獲得した細胞へと変化することを見出している。これら3種類のマイクロRNAを核酸医薬品として開発することは難治性消化器癌の根絶につながると考えられる。しかしRNAは体内に多量に存在するRNA分解酵素により速やかに分解されてしまうこと、更にマイクロRNAを核酸医薬品として扱う際は特にオフターゲット効果が高いこと等から医薬品としての効果が低いことが知られている。そこで分子安定性とオフターゲット効果の低減を実現するためには、人工架橋型分子修飾を用いた核酸医薬品の開発が最適であると考えられる。このような核酸医薬品の最適化はこれまでに類を見ない研究ではあるが核酸医薬品の発展には必須であり、早期の医薬品の実現に向けて加速的に実施する必要がある。我々はこれまでに3種類のマイクロRNAのうちmiR369から人工架橋型核酸を設計し、約400 種類の改変型試作品を合成、活性を調べた。その結果、天然型に比較して標的蛋白質翻訳を抑制または亢進する候補配列が同定され、特異的な分子機構を解明した。本申請ではこの成功例を踏まえて、miR200 とmiR302 の人工設計を行い、天然型よりも核酸医薬品として機能が勝るシーズ最適化を進め、早期の革新的創薬を実現化する。さらにこの最適化した核酸医薬品を生体内で安全かつ有効に局所到達させる為に、核酸に最適なドラッグデリバリーシステムに搭載し、世界初の人工架橋型マイクロRNA 核酸医薬品を実現化する。
2: おおむね順調に進展している
(i)miR302,miR200c人工修飾配列のデザイン miR302,miR200c の天然型配列を元にガイド鎖(mRNAの3’非翻訳領域に結合する鎖)とパッセンジャー鎖(ガイド鎖に結合し2本鎖マイクロRNAを形成する鎖)をそれぞれ20種前後、組み合わせで400 種、合計800 種の候補配列を設計した。これまでの経験に基づき生体内のRNA分解酵素に耐えうると予想される配列の設計を行った。(ii)1次スクリーニングによる最適配列の絞り込み スクリーニングはこれら設計した人工マイクロRNAを合成し、上記のルシフェラーゼレポーターアッセイを行うことでルシフェラーゼの発光量を計測した。この1次スクリーニングによりmiR302,miR200cの最適な人工架橋型配列をそれぞれ10種類程度まで絞り込んだ。(iii)抗癌作用検討による2次スクリーニング 1次スクリーニングにより10種類程度まで絞り込んだmiR302, 200cをそれぞれ大腸癌、膵臓癌細胞株へ導入しその効果検討を行なった。効果検討は細胞の増殖能、細胞死の割合、また、抗がん剤(5-FUやジェムシタビン)との併用投与を行い細胞の生存率を測定した。このスクリーニングにより人工架橋型miR302, 200cをそれぞれ3種類絞り込んだ。
(i)ドラッグデリバリーシステムによる動物実験 自然膵癌及大腸癌発癌モデルマウス(癌組織はルシフェラーゼで発光するため動物の外部から癌を観察することが可能なマウス)を用いて治療実験を行う。治療実験には2次スクリーニングで絞り込んだ人工架橋型miR302, 200cをドラッグデリバリーシステムに搭載した形で使用する。従来のドラッグデリバリーシステムではミセル(直径約100nm)が使用されることが多かった。我々の研究グループでは、より核酸のデリバリーに最適化した10分の1程度の大きさのドラッグデリバリーシステム(ユニットPIC)を東工大の西山らと共同で開発している。このユニットPICに2次スクリーニングで絞り込んだ人工架橋型核酸を搭載する。マウス尾静脈から投与し、癌の体積を継時的に計測する。また同時に有害事象の有無も検討する。これにより最も効果の強い人工架橋型核酸を決定する。(ii)PMDA対面助言と医師主導治験への展開 動物実験の結果(増腫瘍能の低下、血液検査などによる有害事象の有無)を元に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)対面助言を受け、医師主導型治験に向けアドバイスをいただく。また、人工架橋型核酸の知財整備(特許化)、論文化を行い難治性消化器癌に対する革新的核酸医薬品の臨床応用を目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Oncol. Rep.
巻: 37 ページ: 417-425
10.3892/or.2016.5264.
Ann. Surg. Oncol.
巻: 24 ページ: 841-849
10.1245/s10434-016-5395-9.
Biomedical, Reports.
巻: - ページ: -
Oncol. Lett.
Oncol. Rep
巻: 36 ページ: 2946-2950
10.3892/or.2016.5122.
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 36289
10.1038/srep36289.
巻: 6 ページ: 38415
10.1038/srep38415.