研究課題
大規模計算機を用いたバーチャルスクリーニング(in silico スクリーニング)により、これまで困難であったエピゲノム制御因子(JARID1B)の阻害剤スクリーニングを可能にする。これまでにin silico スクリーニングにより約500万化合物のスクリーニングを実施、候補化合物を絞り込んだ段階で化学スクリーニングを実施し、JARID1Bファミリー阻害剤を約50個まで絞り込んでいる。これら阻害剤候補の癌幹細胞での効果検討、動物実験での効果検討による機能確認、計算機による合成展開最適化を行うことで癌幹細胞を標的とした薬剤の導出を目的として本研究に取り組んでいる。平成28年度においては、複数の消化器がん細胞におけるデータの取得と、Jarid1B阻害候補化合物の絞込みを目的とした。研究計画においては、(1)がん幹細胞株を用いたJarid1Bの阻害活性効果の検討と、(2)動物実験による阻害効果を検討することで候補化合物の絞込みを予定し、酵素阻害実験と細胞株実験を平衡して行った。この段階で、購入した候補化合物の検証として再合成品による酵素阻害実験をおこなうと、第一候補化合物の阻害能が当初より低くなってしまった。この原因解明を目的とし、質量分析による不純物同定を試み、さらに平成29年度に予定していたコンピュータ解析を前倒した。その結果、考えられる不純物のコンピュータ予測と合成を繰り返していたところ、当初考えていた候補化合物よりも強力にJarid1Bを阻害する化合物が同定された。これらの試みにより、当初の研究計画から変更を余儀なくされたにもかかわらず、結果的に目的である化合物の絞込みを行うことが出来た。
2: おおむね順調に進展している
1)Jarid1B阻害剤候補化合物の効果検討申請研究実施までに絞り込んでいた50個程度の候補化合物の効果検討を行った。具体的にはまず、酵素アッセイと、様々ながん細胞株を用いてJARID1B発現と50%増殖阻害濃度の比較を実施した。これによって更なる絞込みを実施した。本研究において当初予期していなかったこととして、絞り込んだ化合物を再合成し阻害活性を測ったところ、阻害活性が弱かった。この原因として、当初購入していた化合物を質量分析によって成分を確認したところ不純物が多く含まれており、複数の不純物が阻害化合物であることが判明した。幾つかの不純物構造は解明できたが、残念ながら全てはまだ判明できなかった。2)コンピュータを用いたタンパク質構造解析と不純物同定不純物混入による候補化合物が混迷した問題をうけ、私は研究計画を一部変更し、平成28年度でコンピュータを用いた解析を前倒しした。具体的には、まずJarid1Bタンパク質の立体構造、特に触媒部位を詳細に解析した。その上で、構造が特定できた不純物に対してコンピュータ解析を実施した。構造が特定できた不純物がどのように結合し、どの程度の阻害活性が見込めるのかを予測することで、構造が特定できていない化合物の予測に取り組んだ。考えられる構造を実際に合成し不純物構造を同定する試みを繰り返した仮定で、当初考えていた阻害活性化合物よりも強くJarid1Bに結合する化合物が同定できた。これにより、当初の計画手順とは異なるが、Jarid1Bに対する候補化合物を絞り込むことに成功した。これにより、当初の計画とは異なっているが平成28年度の研究目的はおおむね達成したと考えられるからである。
1)Jarid1B阻害剤の最適な合成展開予測平成28年度に引き続いてコンピュータを用いたシミュレーションにより、昨年度の研究において絞り込むことが出来たリード化合物が、どのようにタンパク質の触媒部位にはまり込み、どのような阻害作用で阻害が見込まれるのかを物理学的予測によって推定する。推定された相互作用ポイントから、不要な置換基と必要な置換基を同定する。これらの結果を用いて不要部位の撤去と追加の相互作用置換基を付加し、現在までに抽出された候補化合物よりも強く阻害が見込める構造を探索する。阻害が見込める構造を実際に合成し、in vitro酵素阻害効果を検証する。更に実験結果をコンピュータに学習させることで新たな展開化合物を予測する。この繰り返しによって、真の意味で強力な阻害物質が抽出できる。2)がん幹細胞と非がん幹細胞での阻害効果の検討コンピュータを用いた構造最適化によって作成された酵素阻害化合物を、実際のがん細胞を用いて効果検討を行う。具体的には、消化器がん細胞株を、がん幹細胞と非がん幹細胞に分離してそれぞれのがん細胞での効果を検討する。ここで細胞表面アレイを使用し、分析装置で瞬時に展開することで、Jard1Bの阻害効果ががん細胞の可塑性を阻害し、がん幹細胞を枯渇化するのに最適な化合物を絞り込む。3)動物実験による阻害効果検討(in vivo)In vitroでの結果をうけ、絞り込んだ最適化阻害候補化合物の効果を動物実験で確認する。腫瘍の増殖能、幹細胞の可塑性、枯渇化を指標として最適化した化合物の効果検討を行う。また、動物投与時の安全性試験として、血液検査等も行い、候補化合物の生体内における安全性確認も同時に実施する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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