研究課題/領域番号 |
16K15618
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
井本 逸勢 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 教授 (30258610)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | RNA結合蛋白 / TIA1a / アイソフォーム / 細胞内局在 / 癌促進作用 / 天然変性領域 / 蛋白リン酸化 |
研究実績の概要 |
これまで癌には抑制的に働くとされていたRBPであるTIA1が、食道扁平上皮癌(ESCC)の発生と進行に伴い発現・局在に変化を生じ癌促進的に働き、これがexon 5でコードされる11アミノ酸を含むヒンジ領域を持つアイソフォームTIA1a特異的あること、ヒンジ領域がセリン・スレオニンに富んだ「天然変性領域(intrinsically disordered region、IDR)」と呼ばれる不安定構造を形成することを見出した。そこで、IDRの修飾による構造変化がスイッチとなって局在が変化し、癌特異的パートナー分子と集合体を形成することで病態特異的な機能モジュール内の癌関連分子群の転写後調節を行い癌化を促進すると予測し、分子スイッチの分子機構の全容を解明する研究を進め、以下の成果を得た。 1.TIA1aの11アミノ酸内外のIDR内における予測リン酸化アミノ酸の活性化・不活性化変異体を作成し細胞で強制発現することで、細胞質局在に関与すると考えられるリン酸化部位を特定した。また、予測される各候補キナーゼをノックダウンするまたは特異的抑制剤を用いTIA1aの局在に対する影響をみることで候補キナーゼを絞り込んだ。 2.RIP-seqによる細胞質におけるTIA1a結合mRNA候補を同定し、さらにその3’UTRを合成しin vitro pull-downアッセイで結合部位を決定すると共に共同あるいは拮抗的に働きうる他のRNA結合蛋白を同定した。 3.ヒンジ部を含むペプチドをTIA1aと共に発現させて、TIA1aの細胞質局在への阻害効果を検証できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に計画した2つの大項目の中で、局在や機能の調節作用に関しては、TIA1aアイソフォーム特異的な天然変性領域を形成する11アミノ酸を含むヒンジ領域周囲で、細胞内局在調節に関与しうる有力なリン酸化候補部位を同定でき、さらにこれに関わるキナーゼを同定できた。また、この領域をペプチドとして発現させることで、細胞内局在を調節できる可能性も確認でき、TIA1aを標的とした治療法開発につながる成果を得られた。一方、下流の標的分子・モジュールに関しては、標的候補ならびに標的候補分子に対し共同あるいは拮抗的に働きうる他のRNA結合蛋白を同定できた。 これらは、当初の平成29年度計画分を含めて進展している。一方、候補標的分子の癌組織内での発現やその病態との関連についての検討は、評価可能な結果が得られる例数に達していないが、当初から平成29年度にかけて継続して行う計画になっており、特に遅れは無い。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、計画をやや上回って成果が得られたことから、平成29年度も当初の計画を継続することを基本とする。研究をさらに加速するために、技術革新の目覚しいゲノム編集技術を導入して、平成28年度に得られた成果をもとに、アイソフォーム特異的発現細胞や標的分子のノックアウト細胞を作成し、効率的に治療標的となりうるTIA1aの癌促進作用への介入部位や上流・下流の介入分子・モジュールの同定を行うことを追加する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
候補リン酸化部位の同定と確認や候補標的分子の同定が予測を上回って効率的に決定できたことから、大幅に試薬の購入量を少なくすることが出来た。また、標的分子の癌での発現の検討が、次年度に主に行うことになり、mRNA/miRNA発現や免疫染色(蛋白発現)に必要な試薬の購入を控えた。
|
次年度使用額の使用計画 |
標的分子の癌での発現の検討のためのmRNA/miRNA発現や免疫染色(蛋白発現)に必要な試薬の購入を行う。また、計画を上回って効率的に進んだ治療法開発をさらに効率よく行うために計画に追加して行うゲノム編集用の試薬の購入にあてて、研究を遂行する。
|