研究課題
1型糖尿病の根治を目指し、従来はインスリン分泌膵島様細胞をつくるのにレトロウイルスベクターを利用していたが、ウイルスベクター以外の安全な方法でインスリンを供給する細胞を作り出す方法を見出した。この手法は、元来インスリンを発現しない体細胞から内在性のインスリン発現を誘導できる強力な直接分化転換(ダイレクトプログラミング)法であり、これまで細胞株を含めてさまざまな体細胞を用いて、リプログラミング後僅か48時間後に内在性インスリン発現が上昇することを見出した。更にこの現象は、胎児線維芽細胞(MEFs)などのマウスの体細胞のみならず、線維芽細胞・グリオーマ細胞株などヒト体細胞など種を超えて広く適応できることが確認された。また膵β細胞の分化促進剤と膵内分泌前駆細胞マーカーを新たに見つけ、僅かな細胞から効率良く膵島様細胞をつくり出すことができ、ヒトへの臨床応用に向けさらに一歩んだといえる成果が得られた。マウスMEFs由来の膵島様細胞をストレプトゾトシン(STZ)投与した1型糖尿病モデルマウスの腎皮膜下へ移植した結果、有意に高血糖の低下が認められ、糖負荷試験ならびにHbA1c値の有意な改善効果が観察された。特筆すべき点は、直接分化転換後の膵島様細胞は試験管内で長期培養において癌化などの腫瘍形成が認められなかった。さらにより安全性の高い技術として改良を重ねて、将来ヒト体細胞から多くの患者さんを根治できる再生医療技術の開発に繋がることが期待される。
3: やや遅れている
1型糖尿病モデルマウスへの移植実験において、ストレプトゾトシン(STZ)の投与量や個体差のばらつきが予想外に多く、安定化させるために多くのマウスと労力を費やした。さらなる条件検討を要するため、個体マウスを用いた実験の最適化にもう少し時間を要するため。
マウスの系統と体重・週齢毎にSTZの投与条件を詳細に設定したのちに移植実験を行う予定である。これらの詳細な条件設定により、より精確で有用な研究成果の取得と臨床治験に向けた安全性の高い技術の開発に繋がることが期待される。
直接変換系の構築を行い、細胞レベルではその有効性が十分に確認できたが、実験動物を用いた実験においては、STZ投与効果に関するマウス個体のバラツキや薬剤投与の実験条件によっては期待される結果を検証することが困難であったため、マウスへのSTZ投与の条件を見直す必要がある。従って、本研究課題の実用性を確認するためには、期間延長が必要であるため、費用差額が生じた。
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Stem Cells
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doi: 10.1002/stem.2567
In vivo
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