研究課題
集学的治療法の進歩により大腸がん患者の生存率は向上したが、再発症例の予後は未だに悪く、早期に再発を発見できる診断法が必須である。我々はこれまで、定量プロテオーム解析法を用いた原発巣組織の解析から、大腸がん転移再発マーカー候補タンパク質を同定してきた。本研究では、大腸がん転移症例の原発巣と転移巣組織の膜タンパク質、分泌タンパク質、リン酸化タンパク質の多面的解析から新しい転移再発マーカー候補を同定し、血中エクソソームを用いた転移再発早期診断法を開発することを目的とする。また、その測定には高精度の質量分析計を用い、再発を来たした症例の術後から再発までの時系列の血液検体を用いて検証を行う点が斬新である。再発の早期発見は適切な治療を早期に開始することを可能にし、患者の予後の向上に寄与できる。平成28年度は、まず大腸がん転移症例の原発巣と転移巣組織の膜タンパク質、分泌タンパク質、リン酸化タンパク質の定量プロテオーム解析による転移再発マーカーの探索を行い、マーカー候補タンパク質を同定する。連携研究者長山は、大腸がん同一症例の原発巣と転移巣組織をセットとして100例以上収集している。それらの組織検体から膜タンパク質、分泌タンパク質、リン酸化タンパク質を抽出し、大腸がん転移再発マーカータンパク質を探索する。次に、それらのタンパク質が血中のエクソソームで検出・定量可能かどうか、高感度定量用質量分析計を用いたSRM/MRM法を用いて検証する。大腸がん原発巣と転移巣組織で見つかったバイオマーカー候補タンパク質について、血中エクソソーム中での検出・定量を行う。
2: おおむね順調に進展している
まず大腸がん患者血清エクソソーム中でバイオマーカー候補タンパク質がどの程度検出できるかについて、検討した。過去に大腸がんのバイオマーカーとして報告されている723種類のタンパク質のうち、356 種類のタンパク質がエクソソームで検出された。それらのタンパク質について、健常者と早期大腸がん患者の血液サンプルを用いてSRM/MRM 法で検証を行い、ROC 曲線下面積(Area Under Curve : AUC)が0.98 を超える、超高感度・高特異度大腸がん早期診断マーカーを発見した。(shiromizu et al., manusucript under review)。そこで、大腸がん組織の原発巣および転移巣の膜画分での定量プロテオーム解析を行い、ターゲット候補分子の絞り込みを行った。同一患者の原発巣/転移巣12組24検体の膜画分を調製し、TMT10plexによる定量プロテオーム解析により4967タンパク質と、原発/転移間で発現量に差のある182種類の膜タンパク質を同定した。これらの同定された候補分子の中で、血清中および培養上清中のエクソソームで検出できたタンパク質が59種類存在した。現在その59種類のタンパク質を一次候補として、SRM(Selected Reaction Monitoring)法による検証解析を行っている。
昨年度までに大腸がん患者血漿エクソソーム中で検出できたタンパク質について、大腸がんの転移マーカー、すなわち、早期大腸がん症例に比べて大腸がん転移をきたした症例で高値を示すかどうか検証する。また、再発を来たした大腸がん症例の術後から再発まで3-6ヶ月ごとに時系列に取られた血液検体から抽出したエクソソームを用い、SRM/MRM法により転移再発マーカー候補タンパク質の定量を行う。対応する大腸がん再発症例の画像診断や臨床経過と照らし合わせ、臨床的に再発が確認される以前に変動するタンパク質を選定する。上記の解析で、転移再発の早期発見に有望なマーカー候補タンパク質について、機能解析を行い、大腸がんの転移と関連する分子であるか検討する。過去に転移との関連の機能の報告のある分子については、その再現性を確認する。機能未知の分子については、大腸がん培養細胞数種類を用い、標的分子のsiRNA、shRNAによるノックダウン、過剰発現もしくはリン酸化サイトの変異体の導入により、培養細胞の浸潤能や転移能を観察する。また、それらの細胞をマウスに移植し、マウスXenograftモデルにおいても、転移能に変化が起こるか検証する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
Sci Rep
巻: 7 ページ: 42961
srep42961 [pii] 10.1038/srep42961
Anal Chem
巻: 88 ページ: 7899-7903
10.1021/acs.analchem.6b01232