研究課題/領域番号 |
16K15630
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
成田 裕司 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (60378221)
|
研究分担者 |
荏原 充宏 国立研究開発法人物質・材料研究機構, MANA-ナノライフ分野, 主任研究員 (10452393)
蟹江 慧 名古屋大学, 創薬科学研究科, 助教 (80636407)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 癒着防止 / 心膜再生 / ペプチド / 心臓再手術 / 術後収縮性心膜炎 |
研究実績の概要 |
本研究は、心臓再手術時の癒着の軽減あるいは収縮性心膜炎などの合併症を抑制するために、心臓外科治療(心膜切開)時に用いる、新たな心膜再生型癒着防止シートの創出を試みる研究である。そのコンセプトは、物理的な遮蔽膜というだけでなく、中皮細胞層を再生することによって、癒着防止を図るものである。本年度は、①中皮細胞再生促進ペプチドの探索・同定、②ペプチド付与P-(CL-DLLA)シートのin vitro評価を行った。③パイロット・スタディとしてP-(CL-DLLA)シートを、ウサギ心膜癒着モデルに移植し評価を行った(in vivo評価)。 ①中皮細胞の基底層にはCollagen type Ⅰ, type Ⅲ, type IVなどが支持組織として存在する。それら細胞外マトリクスのアミノ酸一次配列を参照し、相同性配列や物理的性質ごとに9残基程度のペプチドをIn silicoにて網羅的に探索し、得られたペプチド配列をPIASPAC法で、培養ヒト中皮細胞の細胞接着性や増殖能について検討を行った。結果、中皮細胞に選択性の高い5種類のペプチドを発見した。 ②外科治療に(ハンドリングや縫合に)適したテクスチャー(弾性や強度)を持つ、生体吸収性材料のポリカプロラクトン:ラクチド(60:40, P-(CL/DLLA))シートを作製した。sulfo-SANPAを用いて、ペプチドを効率的にシートに固着するための最適化を行い、基本技術を確立した。 ③ウサギ胸骨縦切開後、心膜を切開、心臓を露出したのち心外膜表面の掻爬およびピシバニールの心膜腔へ注入し、心膜癒着モデルを作成した。そこにP-(CL-DLLA)シートを介在させて癒着の程度を評価した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①本研究期間内に、中皮細胞に選択性の高いアフィニティーを示したペプチドを同定できた。基底膜由来タンパク質を41種類絞り込み、9残基区切りで7残基ずらすと8999配列抽出できた。それを同じ配列のある84配列に絞り込んだ。84配列のアミノ酸にRGDSを加えた85配列に対して、中皮細胞と線維芽細胞両者の接着性を比較し、より中皮細胞のみ接着しやすい配列5つを候補配列として同定した。 ②カプロラクトンとラクチドを60:40の割合で合成したポリマーで作製したシートは、ハンドリングが良好なだけでなく、強度と弾性をもったシートとなった。しかし、ペプチドの修飾基が極めて少なく、通常の状態ではペプチドが修飾できなかった。従って、リンカーとしてsulfo-SANPAを選択し、シート表面に付加した後にペプチドを効率的に縮合することに成功した。実際に、線維芽細胞や中皮細胞を接着させるとペプチド付加によって有意に接着細胞数が増加した。 ③計画より前倒しで、in vivoの検討を行った。パイロット・スタディとして、ウサギ心膜癒着モデルを用いて、ペプチド付加なしシートを移植し、2週間後に評価したところ、癒着が軽減していた。本シートはペプチド付加なしでもある程度癒着を軽減することがわかった。 上述のように研究は計画通り進んでおり、また一部前倒しで計画が進行しているので、概ね順調に進んでいると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
①5種類のペプチドの組み合わせ選択を行う。 ②新たなペプチド修飾方法の開発。sulfo-SANPAを用いる以外の、より効率的な優れた修飾方法を開発する。 ③動物心膜癒着モデルにペプチド付加シートを移植し、ペプチドなしシートとの肉眼的(癒着の程度のスコア化など)あるいは組織学的(細胞外マトリクスの増生状況や炎症性細胞の浸潤程度など)差異を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、計画が予想以上に順調に経過することができたことで、様々な材料・消耗品の支出が少なかったため、見込んでいた物品必要経費が予想よりも少なくなった。また、情報収集、共同研究者との会議等のための旅費も、Web上で済ませることができ予想よりも経費が少なく済ませた。これらのため次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、動物実験を積極的に行う予定であるため、経費が当初の予想よりも増額する見込みであるので、それを計上する。また、本年度確立した手技で、材料のある程度の量産が必要になるので、その経費も計上する。
|