研究課題
平成28年度は、当科で手術を行い、臨床データを有し、当院で保存されていた胸腺癌12例および胸腺腫typeA3例、typeB2/3の6例について、解析を行った。解析方法は、FFPE検体より抽出したDNAおよびmRNAから作成したcDNAを用いて、Affymetrix社のOncoscanを使用したコピー数変化、およびHTA2.0を使用した遺伝子発現の網羅的解析を行った。その結果、コピー数に関しては、1q gain、6p+q loss、16q lossなどが胸腺癌の50%以上に共通する変化であることが判明した。またこれらの変化は、typeA胸腺腫では、ほとんど見られなかったが、typeB2/3でも1q gainや6p+q lossがみられたが、16q lossの頻度は低く、胸腺腫および胸腺癌の進展における相関を示す興味深い結果であった。またOncoscanでは、コピー数変化と同時に、上皮性悪性腫瘍に頻発する遺伝子変異群(例えばp53など)についても検討可能であったが、遺伝子変異はあまり観察されなかった。またトランスクリプトームによる遺伝子発現解析では、coding領域において、typeA胸腺腫と胸腺癌の比較により、581遺伝子の増加、629遺伝子の減少がみられた。また同様に、typeB2/3胸腺腫と胸腺癌の比較では、324遺伝子の増加、690遺伝子の減少がみられた。それぞれの網羅的解析データを用いたクラスター解析により、typeA胸腺腫およびtypeB2/3胸腺腫、胸腺癌のグループをクラスタリングすることが可能であった。また胸腺癌細胞の株化に関して、切除した胸腺癌症例の標本検体をdishで培養することで、線維芽細胞以外にの上皮様細胞の増殖を認めている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、我々の保有するFFPE検体からのDNAおよびmRNAの抽出による網羅的解析を行った。当初予定通り、コピー数変化および遺伝子発現解析を行い、特にコピー数変化に関しては、既報と同様の変化を高頻度に認め、実験手法および解析の正当性が証明された。それにより、胸腺癌、特にその9割を示す扁平上皮癌では、非常に似通った変化が起こっていることが示され、我々の仮説を裏付ける成果が得られている。またtypeAとtypeB2/3胸腺腫および胸腺癌との比較は、過去の論文ではほとんどみられていないが、今回の解析では、typB2/3胸腺腫と胸腺癌とは類似したDNAコピー数変化を有していることが示され、typeAとは相違していた。これは、臨床における悪性度と一致しており、胸腺上皮性腫瘍の発生および進展機序を示す上で非常に興味深い結果となった。また、遺伝子発現網羅的解析においても、mRNAのquality controlを保持しながらの解析が可能であり、クラスター解析において臨床病理学的相違と合致する結果が得られ、より信頼性の高いデータが得られていると考えられた。
次年度は、DNAコピー数異常と遺伝子発現の統合解析を行う予定である。コピー数異常による遺伝子発現異常が見られる遺伝子座が胸腺癌の標的遺伝子となる可能性が高いと考えられ、当大学の遺伝学教室等の統計解析に精通している研究者とも共同して、多様な解析手法を使用して解析を進める。また、候補遺伝子発現について、TissueMicroArrayを用いたタンパク発現量およびFISHを用いたコピー数変化、mRNA発現量変化などの解析を行い、validationを行う。胸腺癌細胞株化をすすめ、in vitroにおけるシグナル解析、標的遺伝子の同定を検討する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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