研究課題/領域番号 |
16K15642
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
位高 啓史 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 教授 (60292926)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳虚血 / mRNA / 神経保護 / DDS |
研究実績の概要 |
2年目のH29年度は、脳由来神経栄養因子(BDNF)mRNA投与による脳梗塞疾患モデル動物への投与による治療実験を本格的に実施した。脳梗塞疾患モデルとしてラット前脳虚血モデルを用い、海馬CA1領域の神経細胞(ニューロン)死を誘導する。キャリア(PEG-PAspDET/mRNA)に内包したBDNF mRNAを梗塞部位近傍の側脳室内に投与し、各時間経過後の脳切片を免疫組織学的に評価した。これまでに得られた知見のポイントは以下の通りである。 1.BDNF mRNAを投与したあと、脳組織中のBDNF量をELISAで測定すると、内在性BDNF発現と比べ、2倍以上に及ぶ高い値が約2日に渡って得られる。2.梗塞部位の組織学的評価で、BDNF mRNAを梗塞発症翌日から2日おきに計3回投与し、発症後6日で免疫組織学的評価を行うと、mRNA投与群の生存神経細胞(ニューロン)数は正常動物の最大60%まで回復する神経保護効果が得られた。3.mRNAを梗塞発症後のタイミングを変えて1回投与する評価を行うと、梗塞発症直後にmRNAを投与する場合より、発症後2日経過後に投与する方が高い神経細胞死抑制効果が得られた。4.mRNAによる外来BDNF発現はニューロンではほとんど観察されず、mRNAの標的細胞は主にアストロサイトであった。 以上の結果より、BDNF mRNAの脳室居ない投与は脳梗塞による神経細胞死抑制に有効であることが明らかとなった。特に発症後数日程度経過した脳梗塞に対して効果が期待できることは、臨床的にも重要な意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
疾患モデル動物に対して治療効果が確認され、研究は順調に進んだものと考えている。特に4.の結果は予想外の結果であり、既存薬と異なる、アストロサイト等グリア細胞を介してニューロンにアプローチする新しい作用機序が働いている可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
上記の点をさらに明らかにすべく、動物行動評価を含めた検討をさらに進め、本治療戦略のPOCを確立する。成果は論文発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題は脳へのmRNA投与による脳梗塞後の神経保護治療を検討するものだが、平成29年度中の研究で、mRNAの効果がニューロンではなくグリア細胞を回するものであることが明らかとなり、既存薬と異なる新しい作用機序であることが示唆された。より精緻な研究成果を得るため、グリア細胞に対するより詳細な解析を行う追加実験の必要が生じた。
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