本研究は脳由来神経栄養因子(BDNF)mRNAを用いて、脳梗塞疾患モデル動物(ラット全脳虚血モデル:海馬CA1領域の神経細胞死を誘導する)に対する治療実験を通じて、脳梗塞の新しい治療戦略を確立することを目的とする。前年度までに、組織学的評価によって、BDNF mRNA脳室内投与による神経細胞死抑制の治療効果を確認していたが、さらに長期的な治療効果について評価を進めるために期間を延長して研究を継続した。その結果、以下の成果を得た。 1.外来mRNAの標的細胞は主にアストロサイトで、一方ニューロン、オリゴデンドロサイトでの外来BDNF発現はわずかであった。 2.BDNF mRNAを梗塞発症後2日目、5日目の二度投与を行うことにより、その後3週に渡り細胞死の進行は抑制され、永続的な治療効果が得られたと判断された。 3.上記投与条件でBDNF mRNAを投与し、短期記憶機能をYメイズ行動評価にて解析したところ、治療群で有意な脳機能保護効果を得た。 以上より、本研究を通じて、mRNA医薬を用いた脳梗塞後の神経保護療法の新しい戦略が提示されたものと考えている。BDNFは本来脳内に生理的に存在する栄養因子だが、これを適切に増強させることにより、高い治療効果が得られる。これを実現するために、投与部位での広範かつ均一なタンパク発現を可能とするmRNA医薬は唯一と言ってよい投与手法であり、特に発症後時間が経過した脳梗塞に対しても治療効果が期待できることは、臨床的に重要な意義がある。
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