研究課題/領域番号 |
16K15649
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
中村 有香 金沢医科大学, 総合医学研究所, 助手 (00565632)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経膠腫 / RNA結合因子 |
研究実績の概要 |
EJC(Exon Junction Complex)はmRNAに結合するタンパク質複合体で、mRNAの代謝や輸送にかかわる。申請者らは、EJCがRNAの代謝と同時に中心体成熟にかかわることを見いだしてきた。この複合体の異常は、遺伝子発現よりも中心体異常を引き起こすため、染色体の不安定性にかかわると考えている。EJCを標的としてさまざまな遺伝子発現データベースを検索していく過程で、神経膠腫、特に悪性の膠芽腫において発現が変動していることを突き止め、さらに予後データと連結することにより、発現異常が予後マーカーとして有用である可能性を見いだした。本申請では、EJCの診断マーカーとしての有用性を患者由来検体を利用して検討する。さらにEJCの発現が膠芽腫において果たす役割を解明し、より有効な診断・治療標的を探索する。本研究はDNAマイクロアレイのデータベースから、EJCが予後因子となりうる可能性を見いだしたことが仮説の根拠となっている。培養細胞を用いた実験においてマイクロアレイのプローブの再評価を行い、データベースの信頼性を検証した。さらに、EJC因子の発現が膠芽腫細胞に与える影響を解析した。EJCコア因子のうちeIF4A3、Y14とMagohについては完全欠損が致死であるためノックダウンの結果を検討し、欠損が致死性ではないCasc3についてCrispr/Cas9を用いたゲノム編集によるノックアウト(KO)細胞系を複数作出した。さらにTet-ONシステムを利用して薬剤誘導による過剰発現(OE)系を作製中であり、ノックダウン及びノックアウトでの解析結果をまとめている。ヒト検体を用いた実験については、免疫染色実験系を立ち上げ、実験による発現変動と予後との関連を解析中であり、29年度においても継続して結果を得ていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNAマイクロアレイにおいては、プローブが必ずしも良好な定量性を示すとは限らないことが知られている。このため、マイクロアレイのデータについては個々のプローブについて定量性を担保しておく必要がある。プローブの定量性を担保するために、各EJC因子のノックダウン細胞においてマイクロアレイ解析を行ったが、いずれのプローブも定量結果は同時に行ったリアルタイムPCRと同等に発現の低下を検出していた。さらに、培養細胞の系ではノックダウン、ノックアウト実験から、EJC因子が発現を失った時に細胞に与える影響については解析が進んだ。一方、強発現系については、Tet-ONシステムを導入して細胞系に与える影響を解析する予定であったが、安定発現誘導系の構築が終了していない。29年度に向けて条件設定を進めて細胞系を構築する予定である。また、ヒト検体における発現変動と予後との相関解析は、特に組織検体の包埋切片における免疫染色実験に良好な結果を得ることができたことから、引き続き症例の数を増やすことでさらに検討を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に実施した実験をさらに進めていく予定であり、29年度においても目的や実験概要に大きな変更はない。培養細胞を用いたTet-ONシステム系の構築に予想通りの結果が得られていないことから、安定発現誘導系を構築するために、レンチウイルス等の実験系を検討する必要が生じている。この場合でも、組換えDNA実験に関する許可は軽微な変更で済むために、迅速に系の確立を進めることができる。ヒト由来標本の解析については、連携研究者との連絡をより密にして成果を確実なものにしていきたいと考えている。最近、EJCが発がん抑制遺伝子の発現制御に関わること(Tarn et al、Sci Rep誌、2017)、EJCが相互作用する因子とさまざまな疾患やがんとの関連性が指摘されつつあり(Liu et al、J Biol Chem、2014、Chang et al、J Biol Chem、2016など)、更には本申請と類似の検討結果が肝がんで報告される(Liang et al、Int J Clin Exp Med、2017、Oncol Rep、2017、2報)等海外でも活発に研究が進められており、速やかに研究成果の公表を目指したいと考えている。
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