研究実績の概要 |
膝滑膜線維芽細胞は、増殖能に優れているだけでなく培養過程で間葉系幹細胞の表原型を発現することが示されている。しかしながら培養により得られるこれら間葉系幹細胞が、滑膜組織中に存在する間葉系幹細胞微小環境に存在する細胞が選択的に増殖した結果であるのか、培養過程において滑膜線維芽細胞が脱分化して得られたかに関しては未だ明らかでない。本研究は、ヒト滑膜組織より分離した初代線維芽細胞培養系において経時的に間葉系幹細胞表面抗原解析を行い、その動態解析から体性幹細胞の性質の理解を深めることを目的とした。人工膝関節置換術の際に採取された滑膜組織から、本学で現在行われている自己間葉系幹細胞移植による関節軟骨、半月板修復の臨床試験と同様の手法を用いて細胞を調製し、培養前、1, 4, 7, 14日後における表面抗原解析を行った(5人の患者様由来細胞を用いた独立実験を行なった)。その結果、滑膜より調製した細胞集団は、培養前においては表面抗原の発現パターンに大きな個人差が存在しており、間葉系幹細胞抗原(CD44/CD73/CD90/CD105)を同時に発現している細胞は全体の1%以下であった。培養を経るに従って、間葉系幹細胞抗原陽性細胞はCD44陽性細胞集団の中から生ずることが観察された。間葉系幹細胞抗原の中で、CD73陽性細胞の増加は、培養後1日以内に観察され、さらにその集団の中からCD90及び105陽性細胞の集団が出現した。これらの結果は、滑膜線維芽細胞はある程度の可塑性を有していること、MSC抗原の発現には階層性が存在することを示唆している。
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