研究課題
骨は悪性腫瘍の転移臓器として頻度が高く,骨転移は病的骨折,疼痛,脊髄圧迫による神経症状,高カルシウム血症など様々な問題を生じ,患者のQOLを著しく低下させる.転移病変を形成するためには,癌細胞が原発巣から遊走して循環系に進入し(intravasation),循環系で生存,標的臓器に到達し,脈管から抜け出して(extravasation)標的臓器で増殖するといった多くの過程を要する.癌の骨転移が進行するには破骨細胞を介した骨吸収が必要である.がん研究において蛍光イメージングは有用な技術であり,その最も大きな利点は「生体内での腫瘍の可視化」にある.蛍光標識した腫瘍細胞を蛍光イメージング装置で観察すると,腫瘍の増殖や進展,治療効果を非侵襲的かつ継時的に観察することができる.転移臓器の中でも,骨髄は硬い皮質骨に覆われているため,骨転移の初期の変化を観察することが極めて困難であり,細胞レベルで骨転移巣を観察したという報告はない.しかし,近年のレーザー顕微鏡の進歩により,皮質を破壊せずに生体内で骨髄を観察することができるようになってきた.本研究では,まず,GFPで蛍光標識したヒト乳癌細胞株MDA-MB-435をヌードマウスに心腔内注射し,転移巣を蛍光イメージングで確認して切除し,細胞を回収して培養し,再びヌードマウスに心腔内注射するというサイクルをくり返すことにより高転移細胞株を樹立した.この高転移細胞株を麻酔下のRFP導入ヌードマウスに心腔内注射し,FluoView FV1000 confocal laser microscope (Olympus Corp., Tokyo, Japan)を用いて頭蓋骨表面を観察した.心腔内注射の10~20分後には蛍光イメージング装置を用いることにより骨髄に到達したGFP発現がん細胞とRFPを発現する正常組織を明確に区別して可視化できた.心腔内注射の3日後にはごくわずかな細胞が生存し,7日後,10日後にはそのわずかな細胞が増殖して腫瘍を形成することが確認できた.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,初期の骨転移病変を蛍光イメージングで観察することによりどのような癌細胞が生着して転移巣を形成するかを明らかにするとともに,癌骨転移の新規治療を開発する.もっとも重要な癌の骨転移モデルを作成,蛍光イメージングでの観察ができており,転移に関連する因子を阻害することにより治療標的を探索するなど,今後の応用が可能な状態である.
癌骨転移の治療標的の探索,新規治療法の開発を進めていく.インテグリン,カドヘリン,CXCR4/CXCL12など転移関連分子の発現と骨転移能の相関を調べ,相関の大きい因子について,RNA干渉によりノックダウンさせて転移能の変化を観察する.また,新規治療として腫瘍特異的バクテリア,ビスフォスフォネートとプラチナ製剤を融合させて骨への集積を高めた新規プラチナ製剤についての研究を行っており,これらの新規治療の効果,安全性についてヌードマウスを用いた骨転移モデルで調査する予定である.
次年度は動物実験を中心に研究を行う予定であり、多くの実験費用を要するため。
実験動物、試薬、実験器具に使用する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 9件、 査読あり 19件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 8件、 招待講演 11件) 図書 (1件)
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