研究課題/領域番号 |
16K15659
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
滝沢 崇 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (40748109)
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研究分担者 |
羽二生 久夫 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (30252050)
友常 大八郎 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (80283802)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨芽細胞 / 遺伝子発現 / 骨再生 / 細胞増殖 / 細胞分化 / 間葉系骨髄幹細胞 |
研究実績の概要 |
成熟した骨芽細胞から細胞本来の持つ後天的な遺伝情報は残しつつ細胞増殖能や分化能をアップレギュレートするような遺伝子セットを同定するために、 1、生後2日の新生児マウス及び生後12週齢の成熟マウスの頭蓋骨組織から骨芽細胞系細胞の抽出および培養実験を行い、両群の細胞形態の比較、骨分化マーカー及び転写因子の比較を行う。 2、新生児細胞と成熟細胞との間で発現している遺伝子の比較を行い、細胞増殖能や分化能に寄与している候補遺伝子の同定を行う。 3、レンチウイルスを用いて候補遺伝子を成熟細胞にトランスフェクションし、候補遺伝子の細胞に対する影響(細胞形態,増殖能,癌化の有無,エピジェネティックな評価)を確認する。 1については、成熟マウスの骨組織から骨芽細胞系の細胞抽出をしている方法自体ないために、この方法を確立するだけで多くの骨芽細胞系の培養実験に有用となる。2については、細胞増殖や分化に向かうような遺伝子セットを同定することで、in vitroで骨芽細胞系の細胞に直接作用して細胞の増殖, 分化ができれば、新しい骨再生医療へ期待が持てる。3では細胞への影響を確認することで、本方法は再生医療で現在用いられているiPS細胞からの骨芽細胞分化や細胞の形質転換をするダイレクトコンバージョン法とは異なるために、細胞の持つ後天的な遺伝情報は残したまま骨再生を期待でき、骨代謝マーカーで治療効果判定をモニタリングしながら局所での骨形成促進を期待できるところに新規性がある。以上より従来行われていなかった骨粗鬆症の新治療に応用できる可能性を秘めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、新生児マウス及び成熟マウスの頭蓋骨組織から骨芽細胞系細胞の抽出、培養実験:生後2日の新生児マウスと生後12週の成熟マウスの頭蓋骨から骨芽細胞系の骨髄間葉系幹細胞を単離してコンフレントになるまで培養し、両群間で発現している遺伝子を比較した。頭蓋骨採取の段階では、骨膜や血球成分をできるだけ除去し純粋な骨組織からOut growした骨芽細胞系の細胞を抽出した。生後2日のマウス頭蓋骨から採取した細胞は約3日間の培養でコンフルエントになったのに対して、生後12週のマウス頭蓋骨から採取した細胞は約1ヶ月間培養でコンフルエントになり、成熟マウスの方が新生児マウスよりも増殖スピードが遅かった。ALP染色により細胞質と核を染めて検鏡すると、どちらも細胞骨格及び核の形態に違いを認めなかった。ALPとRunx2を比較すると,どちらもALPとRunx2の発現を認めており、細胞抽出から最終培養過程までの骨芽細胞系細胞の存在を確認できた.また、成熟マウスでALPは約16倍,Runx2は約28倍発現が低く、成熟マウスでは新生児マウスと比べて骨芽細胞系細胞の増殖スピードまたは骨髄間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化スピードが遅いことが示唆された。 2、候補遺伝子の同定:両サンプルのRNAを採集してDNAマイクロアレイ解析により発現遺伝子の比較をすると、成熟マウスで新生児マウスよりも発現が低下する遺伝子で且つ骨芽細胞系細胞への増殖分化に関連している可能性のある候補遺伝子を5つ選択できた.さらに、これらの遺伝子のクローニングに成功し、レンチウイルスベクターへの組み込みも完了した。 3、候補遺伝子の細胞に対する影響:レンチウイルスを用いて、これらの候補遺伝子の成熟細胞への導入後の影響については現在確認中である. 1、2に関しては平成28年度中に計画を実施できているために概ね順調な進捗と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果から、上記5つの同定した遺伝子のうち骨芽細胞系の細胞の増殖や分化に関わる遺伝子を同定できる可能性があり、今後更なる検討を進めていく。平成29年度も引き続き検討を重ねる内容は、3、候補遺伝子の細胞に対する影響である。ついては ①細胞の形態評価・増殖・分化の評価(検鏡,PCR,フローサイトメトリー) ②エピジェネティック要素の残存の有無(残存するメチル化の有無)の検討を行っていく。 ①については、成熟細胞に対して候補遺伝子をトランスフェクションすることで、実行する。この際、重視するポイントとしては、成熟細胞サンプルにはどのような細胞が含まれ、どの細胞に対して効果があるかということで、この点に関しては免疫染色やフローサイトメトリーを多用して解析する。また、増殖に関しては、それが正常な増殖であるのか、癌細胞のような異常な増殖なのかを、検鏡解析だけでなく、免疫不全マウスへの移植にいる腫瘍形成実験によって確認する。これらの解析を行い、細胞に対する遺伝子の影響が確認できれば論文投稿する予定で考えている。 ②に関しては、骨芽細胞の形質を生じさせる遺伝子に注目して、そのプロモーター領域を中心に、遺伝子導入の前後におけるDNAのメチル化のパターンを比較する。また、個体(個人)によって発現の差が生じやすいとされる遺伝子や、本研究においてサンプル間で発現の差が大きい遺伝子を重点的に解析し、遺伝子導入が個体差を消去せず、治療効果の診療に有用となりえるかを検討する。 なお、平成29年度度が最終年度になるために、今後、動物実験に応用して骨形成評価を行う予定については再度科研申請を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度に提出した各種細胞の遺伝子検査で見積もりが本来の価格よりも安く済んだことと、細胞検査に使用する試薬類で現有のものを使用できて支出を抑えられたことが、次年度使用額が生じた理由と思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度請求額と併せて以下の①~⑤に使用する計画である。 これらの使用額は主に平成28年度の研究成果から5つの遺伝子のうち骨芽細胞系の細胞の増殖や分化に関わる遺伝子を同定するための各種実験費用に充てる予定である。 ①全研究期間を通じて、消耗品として生体外・生体内試験に使用する試薬、実験用動物、実験器具、データ記録用メディアが必要である。②施設内で動物実験を行うために、動物飼育管理料が必要である。③研究成果発表、研究打ち合わせのために、旅費が必要である。④研究成果を論文発表するために英文校正費が必要である。⑤設備は現有のものを使用する。
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