研究課題
腰部脊柱管狭窄症は頻度の高い疾患であるが、これまでその主要な病因である黄色靭帯の肥厚メカニズムに関しては殆ど明らかにされていない。従来の研究では、若年者椎間板ヘルニア患者から採取された『肥厚していない黄色靭帯』と、腰部脊柱管狭窄症患者から摘出された『肥厚した黄色靭帯』の組織学的な比較により、肥厚した黄色靭帯では①膠原線維の増加、②弾性繊維の断片化、③血管新生が認められることなどは明らかになっているが、どのような細胞が膠原繊維を産生するのか、肥厚した靭帯では細胞数に変化は認められるのかなどの基本的なことが解明されていなかった。そこで我々は、マウス腰椎ならびに黄色靭帯の解剖学的解析を行い、ほぼヒト黄色靭帯の特徴を有していることを明らかにした。さらに、マウス黄色靭帯に持続的メカニカルストレスを負荷することにより線維芽細胞の増殖と膠原線維の過剰沈着を確認した。この成果はメカニカルストレスが黄色靭帯肥厚の直接の誘因の一つであることを示した初めての結果である。しかし、メカニカルストレスのみでは中等度の肥厚が限界であり、組織的にヒト疾患で認められるマクロファージ浸潤、血管新生やTGFβなどの線維化関連因子の発現上昇が認められなかった。そこで、黄色靭帯に微小な損傷を加えマクロファージ浸潤を促した結果、血管新生とともに高度の肥厚が確認された。この結果は、ヒト疾患で認められるマクロファージ浸潤が黄色靭帯肥厚の結果ではなく原因の一つである可能性を示している。
2: おおむね順調に進展している
マウス黄色靭帯肥厚モデルの確立に成功した。さらに、コラーゲンタイプ1αのプロモーター下に蛍光蛋白GFPを発現させたトランスジェニックマウスを入手したことにより、線維芽細胞を選択的にラベルすることに成功した。このマウスの黄色靭帯を解析することにより、肥厚した黄色靭帯での線維芽細胞の発現遺伝子プロファイルを解析することが可能となった。現在はこのマウスのGFP陽性細胞をレーザーマイクロダイセクションを用いて選択的に採取することを試みている。
線維芽細胞を選択的にラベル可能なトランスジェニックマウスを用いて、マクロファージ浸潤により線維芽細胞の発現遺伝子プロファイルにどのような影響を与えるのかを明らかにする。さらに、薬剤を用いてマクロファージを枯渇化させたマウスに微小損傷を作成した場合に黄色靭帯の肥厚が生じるか否かを検討し、マクロファージ浸潤が黄色靭帯肥厚の直接的な原因であるのかを明らかにする。また、コラーゲンの架橋と線維形成に必要であるリジルオキシダーゼLOXの阻害剤を投与することにより、メカニカルストレスや微小損傷による黄色靭帯肥厚を阻害可能かどうかを検討する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Plos One
巻: 12 ページ: e0169717
10.1371/journal.pone.0169717.