研究実績の概要 |
慢性疼痛診療の現場で遭遇することの多い難治性の神経障害性疼痛の発症においては、脊髄を含めた痛覚伝導神経回路の器質的・機能的な可塑的変化が原因であることが示されている。昨年まで我々はその中でも、中枢神経系のペインマトリックス、脊髄後角の各線維層、グリア細胞と脊髄後角ニューロンの関連性について示唆に富む実験結果を得ているので、本年は、昨年までの研究成果の延長として、神経障害性疼痛のモデル動物では脊髄後角のGABA作動性ニューロン数が減少するという過去の報告をより高精度で確認することを試み,脊髄後角での制御された神経再生は「慢性痛」治療に必須であることを再度実証できたと考えられる。 特に中枢神経系のペインマトリックスは様々な変容をきたすと報告されており、それを構成する脳部位の特定が進んでいる。昨年の当科の研究でもいわゆる感情面からの疼痛認知修飾をfMRIなどを用いて明らかにしたが、これまでの当方からの(Oginoetal.Anesth Analg 2014, Ogino et al. Cerebral Cortex 2007,Kakeda etal.Neuroreport 2010)を更に推し進める結果となっているので、本年のSocial Neuroscience掲載論文もこれらを補強する結果となっている。現実の臨床においても認知行動療法など高次脳機能の修飾が疼痛治療の主軸の一つとして捉えられるべきであると広く認知されつつあるので、こうした部位での神経可塑性制御も慢性痛治療には欠かせないことが引き続き証明できている。 末梢神経障害性の痛みでは下行性制御系の活動が重要である事が臨床症例おいても再確認されているが、本年の基礎、臨床研究も整合性のある研究成果であり、動物実験において三環系抗うつ薬や抗てんかん薬が末梢神経障害後の痛み誘発性鎮痛の減弱を回復させることが再確認された。
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