オピオイドの一種であるレミフェンタニルは臨床麻酔で多く使用される薬剤である。過去には脊髄においてオピオイドがAMPA受容体の脱リン酸化を介してAMPA受容体電流を低下させることがわかっていた。今回はその知見を脳(海馬)に応用して検討を実施した。まずin vitro実験でレミフェンタニルがAMPA受容体の脱リン酸化(p845)を示すことが明らかとなった。かつこの作用は濃度依存的であった。またこのAMPA受容体のリン酸化は記憶学習の成立に重要である。したがって、この知見を応用し、恐怖記憶をレミフェンタニルにより消去することが可能かどうかを検討した。結果、恐怖学習後にレミフェンタニルを投与することで後ろ向きに恐怖記憶を消去することが可能であった。またこの研究から派生して行った実験であるが、既存のレミフェンタニルには高濃度グリシンが含有されている。近年高濃度グリシンがAMPA受容体のシナプス提示量を低下させることが報告された。しかしながらそのメカニズムは不明であった。今回高濃度グリシン単独でもp845の脱リン酸化を濃度依存的に促進することが明らかとなった。またこの反応はストリキニーネでリバースすることが可能であった。上記知見を応用し、恐怖学習成立前にグリシンを投与すると、恐怖記憶が成立しないことを行動学的に明らかにした。この反応はストリキニーネによって拮抗された。つまりグリシン自体にも同様の作用があることがわかった。
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