研究実績の概要 |
プロポフォール(propofol, 2,6-diisopropylphenol)はその中枢神経抑制作用を利用して手術室において麻酔薬として集中治療室においては鎮静薬として使用されていて患者管理に必須な薬剤である。疫学的にも高い安全を持つ薬剤と考えられているがプロポフォール注入症候群(propofol infusion syndrome, PRIS)と呼ばれる致死性な副作用を惹起することが知られていて臨床使用における大きな問題点となっている。 この病態の分子機序を解明する目的でミトコンドリア遺伝子の変異体を細胞質移植法を用いて細胞に導入したtransmitochondrial cybrids細胞(Cybrids細胞)を作出してプロポフォールが細胞の有酸素・無酸素代謝のモード変換に与える影響と細胞の生死に与える影響を様々な臓器・組織由来の細胞を用いてプロポフォールの標的として細胞内オルガネラミトコンドリアを想定した研究を行った。神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞ではプロポフォール50μM以上を6時間投与した場合に細胞死が惹起され、25μMではより長時間の12時間暴露すると細胞死が引き起こされた。これはC2C12細胞、HeLa細胞、P29細胞でも同様であった。また細胞死を引き起こしたプロポフォール暴露条件において、ミトコンドリアのcomplexⅠ・Ⅱ・Ⅲを抑制することで好気性代謝が抑制され嫌気性代謝へのシフトが生じ、ROS産生の増加が生じた。そしてこの作用はNACでROSを消去することにより打ち消された。又ミトコンドリア機能低下を基礎に持つP29mtA11細胞では、12.5~25μMの低濃度のプロポフォールであっても細胞死が誘導され、metformin・phenforminでミトコンドリア機能を抑制した場合にも同様のプロポフォールへの脆弱性が示された。逆にρ0細胞では50μM6時間のプロポフォール暴露による細胞死に抵抗性になった。以上を明らかにして結果を公刊した。
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