銀ナノ錯体バイオチップを用いて、血中遊離ヌクレオソームを解析することにより、尿路上皮癌の早期診断、病期予測などが可能か検討した。 尿路上皮癌患者30例およびコントロールとして泌尿器良性疾患患者(主として前立腺肥大症)30例を対象とした。末梢血を血清分離し、血清中のヌクレオソームを銀ナノ錯体バイオチップ上に吸着させ、吸着物質として蛍光顕微鏡を用いて、自家蛍光観察を行った。吸着物質のサイズ、数、形態を癌患者と良性疾患患者の検体で比較すると、癌患者からの吸着物質の方が大きく、数も多い傾向を認めた。しかし、吸着物質を形態的に定量化することは困難であった。一方、癌の病期と吸着物質の数、サイズ、形態に関しては明らかな相関は認められなかったが、症例数が少ないため、さらに検討が必要と考える。 次に、癌と良性疾患の吸着物質を識別する最適な波長を選択するため、波長分解能の高い分光器を用いて励起・蛍光波長を検討した。癌患者と良性疾患患者からの吸着物質を比較すると、明らかに異なる波長でピークを認めた。現在、癌患者と良性疾患患者に特異的な波長を同定中である。 以上の様に、末梢血中のヌクレオソームを銀ナノ錯体バイオチップ上に吸着させ、吸着物質の形態を自家蛍光観察することによって、尿路上皮癌と良性疾患を識別できるレベルには至らなかった。一方、分光器を用いた検討では、銀ナノ錯体バイオチップ上の吸着物質に対する励起・蛍光波長を測定することによって、尿路上皮癌と良性疾患では異なるピーク波長が存在することが判明した。各々に特異的なピーク波長を同定できれば、この方法で尿路上皮癌と良性疾患を識別できる可能性がある。
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