研究課題
BRCA1は、卵巣がんや乳がんに関連するがん抑制遺伝子である。BRCA1は、DNA修復タンパク群を束ねてDNA修復に働く。その機能はリン酸化によって制御されているが、その詳細は明らかではない。申請者らは、独自に、Ppp6c(PP6の触媒サブユニット)がBRCA1に結合すること、さらに脱リン酸活性を持たない変異型Ppp6cはより強く結合することを見いだした。これは、PP6がBRCA1の脱リン酸化を制御し、PP6の異常によりBRCA1は異常過剰リン酸化状態になることを示唆した。そこで、PP6は卵巣がんや乳がんの発生に重要な酵素であるとの仮説を持ち、Prognoscanを調べた。卵巣がん患者コホート研究(オーストラリア、DATASETGSE9891)ではPpp6cの遺伝子発現が低い症例において、生存率が低い(p=0.042)ことが示された。PP6には卵巣がんの発症・悪性化を抑える働きがあることが示唆された。我々は、PP6の機能不全と腫瘍化の関係を探るため、まず、最も簡便かつ信頼性のある皮膚発がん実験の系を採用している。マウス重層扁平上皮で、変異型KRASとPpp6c欠損を同時に生じさせるという実験を行い、驚くべきしかし予想通りの結果を得た。その結果、我々は、PP6は、RASが異常に活性化した場合、その下流のどこかで抑制的に働き、組織の過形成を抑える役割があるのではないかと考えている。1年目は、実験1により、仮説「PP6が、がん遺伝子による過形成を抑えている機能をもつ」の証明を行っている。また、実験2により、仮説「Ppp6cは卵巣がんの抑制遺伝子としてはたらく」の検証を行っている。
2: おおむね順調に進展している
実験1:マウス扁平上皮における、2重変異(Ppp6c欠損とKRAS変異)の導入-- 準備済みのマウスを掛け合わせて、タモキシフェンにより、扁平上皮特異的に、以下の変異を誘導できる3種類のマウスを作製し、発がん実験を行っている。 ①2重変異(変異型KRAS+Ppp6欠損)マウス:K14-CreTAM; KrasLSL-G12D/+; Ppp6cflox/flox ② 変異型KRASマウス:K14-CreTAM; KrasLSL-G12D/+; Ppp6c+/+ ③ Ppp6c欠損マウス:K14-CreTAM; Kras+/+; Ppp6cflox/flox タモキシフェンの腹腔注射によってKRAS変異または、Ppp6cの欠損を誘導させる。2重変異(Ppp6c欠損+KRAS変異)導入後の組織を、3週間後まで3日毎に採取し、単独変異(Ppp6c欠損、またはKRAS変異)のそれと比較したところ、2重変異においては、細胞増殖が著しく亢進していることがわかった。実験2:マウス卵巣における2重変異(Ppp6c欠損とKRAS変異)の導入 -- 卵巣に2重変異(変異型KRASとPpp6c欠損)を導入させるために、Ppp6cflox/flox; KrasLSL-G12D/+マウスを用いる。また、卵巣に変異型KRASのみを導入するために、KrasLSL-G12D/+マウスを用いる。それぞれ、開腹手術により卵管漏斗を介して、Ade-CREを感染させることで、卵巣表層上皮細胞に、2重変異(変異型KRASとPpp6c欠損)または変異型KRASを導入させた。
実験1については、PP6の欠損による腫瘍発生について、免疫組織学的手法を用いて、その詳細を解析する。実験2:卵巣がん組織について、以下の2点について調べる。①Ppp6c mRNAの発現量(リアルタイムPCR)②Ppp6cタンパクの量(ウエスタンブロット)これら異常の有無と、予後の関連について解析する。治療開発のために以下について検討する。
消耗品費が、想定よりも少なかったため。
次年度の消耗品費に上積みし、実験の迅速化を図る。
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a Tohoku Gynecologic Cancer Unit Study. Int J Clin Oncol
巻: 21(4) ページ: 735-740
10.1007/s10147-016-0946-4