研究課題/領域番号 |
16K15723
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
氷見 徹夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90181114)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 機能性リンパ球 / 粘膜関連リンパ装置 / 扁桃 / 濾胞ヘルパーT細胞 / IgG4関連疾患 / 脂質メディエーター / 免疫バランス / アレルギー性鼻炎 |
研究実績の概要 |
1.IgG4関連疾患の病態解明: IgG4 関連涙腺唾液腺炎は、高 IgG4 血症、IgG4 陽性形質細胞の浸潤を特徴とする疾患である。IgG4 産生に関連して、液性免疫を制御する濾胞ヘルパー T (Tfh) 細胞と本疾患との関連を示唆する報告がある。すでに,IgG4 関連涙腺唾液腺炎患者が健常者と比べて増加してることを報告した。今回、PD-1 陽性活性化 Tfh 細胞と B 細胞の共培養により、PD-1 陰性 Tfh 細胞と B 細胞との共培養で IgG4 の産生が誘導された。また、組織中にみられる CD4 陽性 T 細胞の多くは PD-1 陽性 CXCR5 陽性の “Tfh細胞” でありTfh 関連分子 (BCL6, CXCL13, IL-4, IL-21) の強い発現を認めた。今回の結果から、IgG4 関連涙腺唾液腺炎で認められる血清 IgG4 増加のメカニズムに PD-1 陽性活性化 Tfh 細胞の関与が示唆された。 2.アレルギー性鼻炎の病態解明: シラカバ花粉非飛散期と飛散期における健常者とシラカバ花粉症患者の末梢血リンパ球中の Tfh 細胞サブセット (Tfh1, Tfh2, Tfh17 細胞)、活性化 Tfh 細胞の割合をフローサイトメーターで解析した。花粉非飛散期、飛散期共に、シラカバ花粉症群で健常者群と比較して全 Tfh 細胞 (CD3+CD4+CXCR5+) に占める Tfh2 細胞 (CD3+CD4+CXCR5+CCR6-CXCR3-)の割合が増加し, ICOS 陽性 Tfh 細胞 (CD3+CD4+CXCR5+ICOS+) の割合が増加していた。Tfh2 細胞がアレルギー素因を規定していること、ICOS 陽性 Tfh 細胞が飛散期における活性化 Tfh 細胞の指標となり、シラカバ花粉症の病態形成に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
液性免疫異常を示す疾患の免疫バランスを考えるうえで,罹患率の高い疾患(アレルギー性鼻炎)と病態が解明されていない新規の疾患(IgG4関連疾患)の両者について検討を進めてきた.アレルギー性鼻炎に関しては地域的な特性からシラカバ花粉症に焦点を当てて検討した.IRBの承認後人を対象とした検討では,すでに2型Tfhへの免疫バランスのシフトを見出し報告した.さらに,今年度は末梢血中の細胞と局所の違い,Tfhサブタイプの動向も検索することとした.IgG4関連疾患でも同様の検討を進めた. 今年度の成果として,詳細な臨床データとの比較から,IgG4関連疾患ではTh2へのシフトだけでなく,Tfh細胞の活性化バランスの関与そしてその活性化状態のサブタイプのバランスとの関連が指摘でき,すでに論文を投稿中である.一方,アレルギー性鼻炎では臨床的に重要な花粉飛散期と非飛散期の比較を行い,Tfhの活性化のバランスが変化吸うことを見出し,投稿準備中である.別のプロジェクトとの協力により,より詳細なTfh細胞の特徴を見出すことができた.Tfh細胞の新たな特異的分子の同定を行い既に報告した.さらに,機能解析では,脂質メディエーターのうちリポキシンの関与を示すことができ,液性抗体産生異常に対する新たな治療戦略の基礎的研究として特徴的な結果を得ることができた.これらの結果をアレルギー性鼻炎,IgG4関連疾患に対して臨床的な応用として位置付ける試みが進行中である.
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今後の研究の推進方策 |
臨床的側面と基礎的側面の両方からTfh細胞を中心として解析を進める.特に,アレルギー性鼻炎ではIgEの産生機構にこのTfhがどのように関与しているか,あるいはTfhの機能異常がどのようにⅠ型アレルギーに関与しているかを解明する.また,疾患のバイオマーカーとしての役割も追及することとしている. IgG4関連疾患については疾患の唾液腺からのTfh分離が可能となったため,今まで詳細が不明であった局所でのIgG4産生とTfhとのかかわりをさらに追及することとする.これ以外の病態の不明な疾患に対するアプローチも最終年度は行う予定で,耳鼻咽喉科領域の免疫学的異常が予想される疾患で病態がまだ不明なものについて(好酸球性副鼻腔炎,木村病など)症例検討を行うことを予定している. 免疫バランスの異常が示唆される疾患は多岐にわたり,前述の疾患以外に腫瘍や感染症でも免疫バランスの異常が病態を修飾している可能性が高い.末梢血を用いた免疫バランスの測定法と基準値の設定はこれらの疾患の全身免疫バランスの新しい概念を形成することができるため,最終年度はこの検討も同時並行して行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに研究成果として投稿中の論文が修正を求められているため,最終的な受理の判定が遅れている.成果発表のための投稿料が未請求のため残額として生じたこと,さらに,その論文の追加研究のための費用が必要なため耳年度分として残額を計上した.研究自体は予定した以上に進行しているため,研究の進行の遅れのために残額が生じたわけではない.
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次年度使用額の使用計画 |
現在投稿中の論文投稿料として,また,追加研究のための物品費用として使用予定である.
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