研究実績の概要 |
カルシウムチャネル修飾薬の薬理効果を検討するため、まず、内耳で十分に解明されていないカルシウムイオン制御機構について検討するため、内耳に発現する遺伝子の網羅的解析を行った。その結果、カルシウム感知受容体が検出され、新たなカルシウム制御機構の候補として検討を行った。 前年度までの検討で内耳内での分布を同定したが、内耳内の2つの異なる組成をもつ細胞外液、すなわち、内リンパを保持する区画と外リンパを保持する区画のうち、外リンパ液を保持する区画内のうち、数種類の細胞種に発現がみられた。 カルシウム感知受容体は蝸牛外では腎尿細管でのカルシウムの再吸収や副甲状腺での血中カルシウム濃度に重要な機能を果たしていると考えられていることから、類似の機能を持つと推定した。外リンパでのカルシウム濃度は正常な聴力維持に必要不可欠であるであることはすでに報告されており、本カルシウム制御機構が生理学的に内耳のカルシウム制御に重要な役割を果たしているかどうか、を明らかにするため、既に確立している2種類のカルシウム感知受容体阻害薬を外リンパ液に直接投与を行った。この実験に際しては、リンパ液への投与を行いながら、調整脳幹反応を用いて聴力を連続的に測定する実験系の確立を要した。その結果、聴力の大幅な低下が見られたことから、本受容体がリンパ液のカルシウムホメオスタシスに重要な役割を果たしていることが示唆された。 本知見を元に、カルシウム感知受容体の薬理学的な活性化薬であるR568の聴覚増強作用を検討したが、有意な増強効果を認めなかった。 さらに、他の聴力増強作用を持つ薬剤の候補としてシナプス伝達を制御する電位依存型カルシウムチャネルの活性化薬である1,4-Dihydroxy-2,5-di-tert-butylbenzeneの評価を本実験系を用いて行ったが、予備実験では聴力への有意な増強効果は認めなかった。
|