研究課題/領域番号 |
16K15729
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
富田 浩史 岩手大学, 理工学部, 教授 (40302088)
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研究分担者 |
菅野 江里子 岩手大学, 理工学部, 准教授 (70375210)
田端 希多子 岩手大学, 理工学部, 学術研究員 (80714576)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 眼生理学 / 遺伝子治療 |
研究実績の概要 |
幼若期の失明モデルや中途失明モデルにおいて、失明後に視覚野が音に対して反応する、聴覚野の一部として機能することが知られている。本研究では、遺伝盲ラットを用いて、失明後の視覚野の機能変化を音に対する視覚野の応答を指標として、視覚野が聴覚野の一部として機能する過程を調べるとともに、遺伝子導入によって視機能を回復させ、聴覚野の一部となった視覚野が、視覚野として機能する過程を調べることを目的とする。 本実験では、一旦視細胞が正常に発生するものの生後20日前後から視細胞の変性が始まり、生後3ヵ月で失明に至る遺伝盲ラット(RCS rdy/rdyラット)とNMUの腹腔内投与による視細胞変性モデルを用いた。コントロールとして、視細胞変性を来さないRCS(+/+)ラットおよび、Wistarラットを用いた。生後3ヵ月のRCSラット、RCS(+/+)、Wistarラットの視覚野に記録用電極を埋め込み、音刺激に対する誘発電位を測定した。生後3ヵ月のrdy/rdyの音刺激による誘発電位振幅は、RCS(+/+)およびWistarラットに比較して有意に大きく、視細胞変性の進行とともに視覚野が音に対して応答していることが判明した。一方、正常な視細胞を持つコントロールラット、RCS(+/+)、Wistarラットにおいても生後3ヵ月では、rdy/rdyに比べ反応性が低いものの、音に対する反応が記録された。rdy/rdyでは、生後4ヵ月ではさらに音に対する反応性が増大したが、コントロールラットでは、生後4,5ヵ月とその反応性は徐々に減弱した。 以上の結果から、視細胞変性により音に対する反応性が増大することが明らかとなった。今後、遺伝子治療により、音に対する反応性がどのように変化するかを調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視覚野の機能変化が実際記録されるか不明であったこと、もし、機能変化が起こったとしてもわずかな変化であることを想定していたが、予想外に明瞭な視覚野の機能変化が観察された。失明直後(生後3ヵ月)から視覚野の音に対する反応性が増大するものと予想していたが、生後4か月を最大に徐々に減少傾向を示した。このような新たな知見が得られつつあり、挑戦的萌芽研究として順調に進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は遺伝子導入後の視覚野の機能変化を誘発電位測定と行動学的評価により行う予定である。具体的には、遺伝子導入前の行動解析を行った後、AAV-mVChR1(mVChR1遺伝子を含むアデノ随伴ウイルスベクター)を硝子体内に投与し、視覚を再生させる。遺伝子導入後、約2ヶ月で、光-視覚誘発電位の振幅が最大となることがこれまでの研究で明らかとなっており、遺伝子導入後2ヶ月を起点とし、視覚再生後の視覚野の音に対する応答を記録する。音-視覚誘発電位(audi-VEP)測定のタイムポイントで一部の動物は、暗順応下で音刺激あるいは光刺激を与えた後、還流固定を行い、脳を摘出する。摘出後、4%パラホルムアルデヒドで再固定した後、凍結切片を作製し、c-fos抗体を用いて免疫染色を行う。c-fosは初期応答遺伝子として知られており、免疫染色を行うことにより、音あるいは光に応答した視覚野の領域を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
視覚野の機能変化が実際記録されるか不明であったこと、もし、機能変化が起こったとしてもわずかな変化であることを想定し、遺伝盲ラットの個体数を多く設定していたが、予想外に明瞭な変化が見られたため、群の個体数を減少させた。RCSラットは高価であり、個体数を減少させたため、予算を次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
予想外に明瞭な機能変化が観察されたため、観察期間を延長し、長期の変化を調べることとしたため、当初予定した、視覚野の免疫染色を行う動物をこれらの動物とは別に、新たに次年度に準備する予定である。
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