研究課題
緑内障発症・進行の代表的なリスク因子は高眼圧であるが、日本人では正常眼圧緑内障の患者が過半数を占め、眼圧に依存しない緑内障発症・進行リスクをもつ症例の存在が示唆される。しかし現時点でその識別は困難である。また、代表的な緑内障手術である線維柱帯切除術は、創部瘢痕化のため手術不成功に至る症例が少なくないが、術後経過不良症例を術前に識別することは困難である。生体試料を核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance: NMR)計測し、ケモメトリクスによるデータ解析を行う方法は、生体試料に含まれる豊富な情報を活用して、個々の試料を識別することを可能にする。平成28年度は、前房水・血清試料を採取した緑内障患者の臨床データ収集を行い、検討に用いるサンプル選定を完了した。併せてケモメトリクスに適したNMR計測値の取得および信号処理手法、解析手法のプログラムを改良した。平成29年度は、緑内障患者の血清試料19検体について、NMR計測値の取得および信号処理手法の検討を行った。症例の内訳は、眼圧上昇が主たる緑内障発症・進行のリスク因子と想定されるプラトー虹彩形状緑内障患者8例と、眼圧以外の因子も緑内障発症・進行に関与していると想定される視神経乳頭出血既往をもつ正常眼圧緑内障患者11例とした。本研究で確立した解析手法を用いてNMR信号の処理を行い、PLS-DA法によるクラス分類を行ったところ、両群は個々にクラスター化し、両群が識別される可能性が示唆された。並行して、線維柱帯切除術を施行された緑内障患者について、術後経過の臨床データ収集を完了した。今後は、今回の結果をブラッシュアップし、眼圧非依存の緑内障発症・進行リスクを有する症例を識別するために有用なモデル作成をめざす。続いて緑内障に対する線維柱帯切除の術後経過良好群と術後経過不良群の2群を、術前に採取した試料から識別するモデルの作成をめざす予定である。