研究課題/領域番号 |
16K15736
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
森藤 暁 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (20647234)
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研究分担者 |
本間 美和子 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (40192538)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 視細胞 / ミトコンドリア / 網膜 / マウスES細胞 |
研究実績の概要 |
本年度、研究を開始するにあたり、マウスES細胞からの網膜細胞分化系の立ち上げを行なった。理化学研究所から、マウスES細胞株(Rx-GFP,EB5)を購入し、既報の3次元立体網膜作製法を導入を行なった。続いて、細胞レベルでのミトコンドリアの観察により適する2次元的な分化培養系として、ヒトES/iPS細胞で報告された、未分化細胞塊をマトリゲルで挟み網膜細胞へと分化させる方法が、マウスES細胞でも可能かどうかの検討を行なった。まず、Rx-GFPを用いて、ヒトと同様のマトリゲルで挟む条件で、未分化細胞塊の代わりに、胚様体の大きさや分化培地を変え、レポーターGFPの発現を指標に分化条件の最適化を行なった。その結果、ES細胞3000個で胚様体を形成させたのち、分化培地にレチノイン酸受容体阻害剤AGN193109を添加する条件で、D5付近において、Rx-GFPのGFP蛍光が強く誘導されたため、この条件を用いることにした。この条件で、経時的なサンプリングを行ない、未分化マーカー、網膜細胞分化マーカー、網膜神経節細胞分化マーカー、視細胞分化マーカー等の遺伝子発現やタンパク質発現をRT-PCRとウエスタン解析により検討した。その結果、培養後期のサンプルにおいて、視細胞マーカー遺伝子の発現が上昇することが確認されたため、少なくともマウスES細胞から一部の細胞は、本研究で実施した胚様体をマトリゲルで挟み込む方法により、網膜系の細胞への分化が起こっており、視細胞への分化も起こっていることが分かった。次にマウスES細胞からの分化過程で、ミトコンドリア動態を観察するために、MitoTracker Redによりミトコンドリアの染色を行ない、分化過程での経時的な観察を行なった。ES細胞からの分化が進むとともに、細胞内へのミトコンドリアが増加している様子が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始時に、マウスES細胞からの3次元立体網膜作製法(Eiraku et al. 2011)の導入を進めるとともに、細胞レベルでのミトコンドリアの観察により適する2次元的な分化培養系として、ヒトES/iPS細胞で報告された論文(Boucherie et al. 2013; Sluch et al. 2015)を参考に、マウスES細胞の胚様体をマトリゲルで挟み込んで、2次元的に分化培養を行なう網膜細胞分化系も立ち上げることにした。この手法は、マウスES細胞では確立していない方法であるため、培地や胚様体のサイズなどの詳細な検討が必要であり、予定より網膜細胞分化系の立ち上げに時間を要した。以上から、本年度の研究において、網膜細胞分化系を立ち上げることができたが、当初計画していた視細胞など網膜構成細胞を蛍光ラベルできるようなノックイン系統の作出までは至らなかったということで、進捗状況をやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
マウスES細胞からの網膜細胞分化系を立ち上げることができたため、今年度は、本網膜細胞分化系にどの程度網膜構成細胞が含まれているかの評価を、各種網膜構成細胞マーカーの抗体染色により行なう。そして、FACSによる視細胞や網膜各種細胞を濃縮するためと生存細胞での可視化のために、網膜の特定の細胞が蛍光ラベルされるレポーターノックインES細胞の作製をすすめ、必要に応じて、既に論文で報告されているレポーターノックインES/iPS細胞等を入手する。これらのレポーターノックイン系統でも、EB5系統やRx-GFP系統と同様に、網膜細胞分化培養法で、実際に網膜細胞に分化するかどうかを確かめ、FACSによる細胞分取の検討等を進める。当初の申請書では、ヒトiPS細胞を導入することを予定していたが、マウスES細胞の維持や分化に関わる培地等に要する費用だけでも高額となるため、本研究では、ヒトiPS細胞を導入することは中止し、マウスES/iPS細胞を用いた研究に専念する研究計画に変更する。また、今年度より、研究代表者である森藤暁が、福島県立医科大学から立命館大学へ異動したことで、当初予定していた福島県立医科大学での質量分析実験等は実施が困難になり、理化学研究所より再度、マウスES細胞株(Rx-GFP,EB5)を購入しなければならなくなった。そこで、質量分析装置の必要な代謝物解析やミトコンドリアタンパク質複合体解析は行なわずに、立命館大学では、特に分化初期の視細胞をFACSにより単離して、視細胞変性モデルマウスに移植する方向、網膜構成細胞の電気生理学的な応答を見ることで機能評価を行なう方向、糖やアミノ酸などの培地成分を検討することにより、レポーター系統で視細胞やその他の網膜構成細胞がどの程度濃縮されるかを検討する方向で研究を進めることを考えている。
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