研究課題/領域番号 |
16K15755
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
河合 建一郎 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (80423177)
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研究分担者 |
藤原 敏宏 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (00423179)
西本 聡 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (30281124)
石瀬 久子 兵庫医科大学, 医学部, 研究生(研究員) (30567194)
曽束 洋平 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (40437413)
藤田 和敏 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (40461066)
垣淵 正男 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (50252664)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肥厚性瘢痕 / 炎症 / 機械的刺激 |
研究実績の概要 |
肥厚性瘢痕は、創傷治癒反応が過剰に起こりコラーゲンなどの細胞外マトリックスが蓄積した状態である。関節など機械的に反復する刺激の強い部位に生じやすく、創部への物理的機械的刺激がその成因に関わると考えられている。これまで我々は機械的刺激が肥厚性瘢痕を引き起こすメカニズムの1つとして線維芽細胞に発現するTRPC3というカルシウムチャネルに着目し研究してきた。 機械的刺激の他に肥厚性瘢痕の成因として考えられているものに炎症がある。感染や血腫などにより炎症が強く起こった際も肥厚性瘢痕となりやすく、また肥厚性瘢痕そのものも発赤・腫脹といった炎症症状を呈していることから、その成因に免疫系とのつながりがあるのではないかと考えられている。実際に肥厚性瘢痕組織内では好中球やCD4陽性T細胞の浸潤がみられる。 炎症・免疫反応は、大まかには、最初に樹状細胞などの抗原提示細胞が抗原を提示し、サイトカインを放出し、これにリンパ球が反応、更に様々なサイトカインを放出することで血管透過性の亢進や細胞の遊走を促すことにより起こる。機械的刺激がある部位には炎症が起きやすいが、肥厚性瘢痕部分に分化したT細胞が出現するということは、はじめに機械的伸展のシグナルが直接的もしくは間接的に樹状細胞に伝わり、抗原提示やサイトカインの放出が行われているのではないかと考えられる。 本研究では線維芽細胞と樹状細胞の相互作用を見る。これまでの機械的伸展に対する研究でTRPC3過剰発現線維芽細胞を作成し、肥厚性瘢痕が引き起こされる際には線維芽細胞はTRPC3を介してFibronectinの発現上昇が見られることを解明している(Sci Rep. 2015 Jun 25;5:11620)ため、炎症が起きた際の線維芽細胞側の応答の確認のためCRISPR/Cas9システムを用いてTRPC3ノックアウト線維芽細胞の作成を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ベクターとしてpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9を用い、標的配列を組み込んだプラスミドを作製して大腸菌で増幅させた(プラスミドの配列が正しいことはsequenceを確認した)。その後、NIH3T3細胞やTRPC3過剰発現細胞に作成したプラスミドをLipofection法でtransfectionした。Transfectionされた細胞を96well plateに1cell/wellとなるよう限界希釈して播種しisolationして株化を行った。western blotにて目的遺伝子がノックダウンされた株があるか探索した。また、TRPC3はEndothelin Receptorとカップリングし、細胞内シグナルを通すことが知られているため、Endothelin Receptor type A(EDNRA)ならびにtype B(EDNRB)についても同システムを用いてノックダウンを試みた。 しかしながら、TRPC3ノックダウン、EDNRAノックダウンおよびEDNRBノックダウン候補の株をそれぞれ20株ずつほど作成しwestern blotで確認したが、そのいずれの株由来のlysateに対して各抗体にてexpected sizeにbandが出ており、目的遺伝子はノックダウンされていなかった。現在ノックダウンできない理由を精査中である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のごとく、CRISPR/Cas9システムを用いての線維芽細胞におけるTRPC3、EDNRA、EDNRBのノックアウト作成が思うように進んでいないため、次年度は別のアプローチで研究課題を遂行する方針である。 ・皮膚樹状細胞の分離・培養(樹状細胞のマーカーであるCD11c(+)細胞をMACSシステムにて分離/培養)。・皮膚樹状細胞の伸展実験(TGFβ,IL-6, IL-23の発現についてReal Time PCRやELISA法を用いて調べる)。・皮膚線維芽細胞を伸展した際のケモカインの発現変化(CCR6発現細胞に対し強いケモカインとして働くCCL20の発現変化)。・ヒト肥厚性瘢痕組織の観察。・皮膚樹状細胞と皮膚線維芽細胞の共培養。・T細胞と樹状細胞の共培養。・線維芽細胞とTh17細胞の共培養。・マウス皮膚創部緊張モデルによる観察、といった実験を検討している。 また、免疫系細胞と線維芽細胞の相互作用に表皮細胞が関わることも考えられるため、上記手法でも思うように進展が見られない場合に備え、表皮細胞についても同時に培養や実験を行いそれぞれの細胞との相互作用や表皮細胞と線維芽細胞の相互作用についても観察する。 残り1年と限られた研究期間であるため、いずれかの方法のうち、アプローチしやすく成果が上げられそうなものから優先的に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は各ノックアウト細胞の作成が思ったように進まなかったため、それ以降の研究に用いる試薬を購入しなかったこと、研究成果発表を行う機会がなかったことなどが理由と思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度予定通り進まなかった研究については方法を変えて行う。次年度予定の研究を遂行する際に、残額を無駄なく効果的に使用予定である。
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