研究課題
当研究で用いたP0-Cre/CAG-CAT-EGFPダブルトランスジェニックマウスは、胚発生時期の神経堤細胞特異的に活性化するミエリンプロテインゼロ遺伝子のプロモーターによりCreリコンビナーゼが発現し、神経堤細胞がその後分化してもGFPが産生される。各組織に存在する神経堤由来細胞はGFP陽性細胞として検出が可能となり、出生後の長期観察においても体内各所に神経堤由来細胞が存在することが確認できた。フローサイトメーターでGFP陽性細胞とGFP陰性細胞を分取した後に、DNAマイクロアレイによって網羅的にそれぞれの細胞の遺伝子発現プロファイルを比較した。GFP陽性においてはP2RY4 (pyrimidinergic receptor P2Y, G-protein coupled 4)と、ephrin A2が高発現することを確認した。一方で、GFP陽性細胞は、syndecan 2 (Sdc2)とSdc3の発現が低下していることが明らかになった。ダブルトランスジェニックマウスより採取した細胞を幹細胞培地で培養すると、培養開始2週後には、全細胞数のおよそ95%を陽性細胞が占めた。幾つかの間葉系幹細胞マーカーの発現が高いことから、未分化性を保持したまま増殖したと考えられる。骨芽細胞誘導培地で培養すると、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性が上昇し活性は、BMPの濃度に依存して促進した。GFP陽性細胞をアテロコラーゲンスポンジに混入して、頭頂骨に自然修復しない欠損を作成した骨欠損モデルマウスに移植すると、細胞混入スポンジを移植したグループで骨様組織の修復が促進された。成体マウスに存在する神経堤由来細胞は、未分化な状態で多分化能を有する細胞集団であり、特徴的な細胞表面分子を発現することが明らかになった。さらに動物実験から、移植した神経堤由来細胞は骨様組織へ誘導できることが観察できた。
2: おおむね順調に進展している
現時点においては神経堤由来細胞の同定は確立されたものがなく、P0-Cre/CAG-CAT-EGFPダブルトランスジェニックマウスを用いることで、GFP陽性細胞を指標とした成体に分布する、神経堤由来細胞の分布領域をスクリーニングすることが可能となった。GFP陽性細胞とGFP陰性細胞によるDNAマイクロアレイの結果から、GFP陽性で高発現するP2RY4、ephrin A2とOscarといった標的となる分子マーカーの同定に至った。当初の研究計画では平成29年度に実施予定であった骨再生誘導は、すでに進行させて幾つかのスキャホールドを試みた結果、コラーゲンを主体としたスキャホールドに神経堤由来細胞を混入した細胞移植法を用いることで良好な結果が得られた。神経堤由来細胞の毛包内の細胞分布、細胞増殖を促す最適条件ならびに骨芽細胞分化誘導など多分化能についての解析が計画どおり達成された。計画を前倒して成果が出た一方で、Wnt1-Cre/GFPマウスの解析作業は現時点で終了していない。しかし、平成29年度中旬には完了予定であることから、総合的な研究全体の達成度区分を「おおむね順調に進展している」と評価した。
研究計画はGFPを発現する異なる2系統の遺伝子改変マウス(P0-Cre/GFPマウス、Wnt1-Cre/GFPマウス)を解析して、神経堤由来細胞特異的な細胞表面マーカーの探索を予定する。2系統で共通して特異的に発現している細胞表面マーカーを抽出することにより、高純度の神経堤由来細胞を精製できる可能性がある。この細胞表面マーカーを指標とし純化された神経堤由来細胞を用いた骨誘導を計画する。神経堤由来細胞から誘導した骨芽細胞の形質や遺伝子発現を詳細に解析し、結果に立脚した骨誘導の細胞ソースとして、神経堤由来細胞の価値を明らかにする。P0-Cre/CAG-CAT-EGFPダブルトランスジェニックマウスの神経堤由来細胞を、コラーゲンを主体としたスキャホールドに包埋後に、欠損部へ移植する。その他の骨欠損モデル動物を用いて、神経堤由来細胞が持つ骨組織誘導・骨再生能について解析する。解析法として、組織形態学的評価と高解像度micro CTから評価する。さらに効率的に、骨を誘導できるスキャホールドの組成について検討する方針である。
DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現プロファイルの解析による、GFPを発現する異なる2系統の遺伝子改変マウス(P0-Cre/GFPマウス、Wnt1-Cre/GFPマウス)のそれぞれGFP陽性細胞に共通する、並びにGFP陰性細胞に共通して発現する遺伝子の同定が未完了である。
GFPを発現する異なる2系統の遺伝子改変マウス(P0-Cre/GFPマウス、Wnt1-Cre/GFPマウス)のそれぞれGFP陽性細胞、ならびにGFP陰性細胞に共通して発現する遺伝子を、DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現プロファイルの解析によって同定するための実験に経費をあてる。さらに骨欠損のモデル動物を用いた種々のスキャホールドの選定、ならびに各種成長因子の組み合わせによる修復組織の解析から、骨組織誘導あるいは骨再生能を評価する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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