定位照射は、肺がんに応用され、これまで通常の照射法では全く治癒しなかったものが、手術以上の成績を残すに至り、近年、頭頸部ががんにも応用が試みられている。しかしながら、1回線量を大きくし、分割回数を少なくすることがなぜ有効なのか、その生物学的根拠はいまだに解明されていない。本研究では、Fucciと呼ばれる細胞周期可視化システムを導入して、定位照射が特にG2アレストに与える動態を検討し、定位照射が腫瘍の放射線感受性を高める可能性を検討するものである。平成29年度は、新たに作製したHSC3-Fucci、HSC4-Fucci細胞の定位照射で用いられる1回10Gy照射後のDNA損傷応答(DDR)を解析した。その結果、HSC3-Fucci細胞は、HSC4-Fucci細胞より放射線感受性を示し、S/G2期において非相同末端結合が強く抑制されているため、著しく長いG2アレストを示すことがわかった。こうした細胞は、定位照射における2回目以降の照射に感受性が高くなることが示唆された。また、G2アレスト阻害剤を加えると、HSC4-Fucci細胞のみ増感することがわかり、このことは、非相同末端結合が正常な細胞でこの阻害剤が有効であることを示唆した。さらに、固形腫瘍に2Gyx5照射しても、緑色と赤色の比率は、10Gy1回照射に及ばないことがわかり、このことは、通常の照射より定位照射の方が、効率よく放射線感受性の高いG2/M期に腫瘍細胞を同調させることが可能となり、2回目の照射が通常の照射より有効である可能性が示された。
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