研究課題/領域番号 |
16K15797
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
江草 宏 東北大学, 歯学研究科, 教授 (30379078)
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研究分担者 |
鎌野 優弥 東北大学, 大学病院, 助教 (70757260)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 再生歯学 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
骨増生術における細胞移植治療は、より審美・機能的な補綴歯科治療を可能にするものと期待されている。従来の顎骨再生アプローチは、骨芽細胞の石灰化能に依存した「膜性骨化」を基本としていた。しかし、広範な骨欠損では細胞は低酸素状態に陥りがちであり、血液を供給する血管新生も困難であるため、この骨化様式による再生治療には限界があるかもしれない。これに対して本研究では、低酸素状態が有利に作用する「軟骨内骨化」に着目する。本研究は、iPS細胞から作製した軟骨細胞塊を用い、軟骨内骨化を模倣して骨欠損の再生を導く治療法の開発を目的とする。平成28 年度は、マウス歯肉由来iPS 細胞を用い、胚様体から3次元的な軟骨細胞塊を誘導する際の、分化誘導期間、力学的刺激(振盪培養)、スタチン添加濃度の各条件を、アルシアンブルー染色、HE染色、Real-time RT-PCRを用いて検討した。また、マイクロ空間制御3次元培養器を用い、iPS細胞の軟骨細胞誘導過程における培養環境空間のサイズが分化に及ぼす影響を検討した。その結果、胚様体のサイズを培養器によって規定したうえで胚様体培養の期間を短縮し、これを誘導培地で振盪培養することで、iPS 細胞構造体が効率的に軟骨細胞塊に誘導される可能性を示す知見を得ている。また、軟骨細胞誘導したマウスiPS細胞に対して、初期に骨芽細胞分化誘導培地を用いることで、細胞塊を部分的あるいは全体的に石灰化させることに成功し、iPS細胞から軟骨/骨芽細胞複合体を作製する技術基盤を確立しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成28年度にiPS細胞を用いた軟骨/骨芽細胞複合体の作製技術の確立を予定していた。これについては、現在までに、マウスiPS細胞から軟骨細胞塊を効率的に誘導する特定の培養条件を同定しつつあり、この細胞塊を石灰化させる技術も得られていることから、次の研究段階に進むことが可能な状況にある。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に決定したiPS細胞を軟骨細胞塊に効率的に誘導する条件で培養し、得られる軟骨細胞塊について、血管新生促進因子(VEGF、アンジオポエチン1、HGF等)の発現をELISA、免疫蛍光染色を用いて検討する。また、このiPS細胞由来軟骨細胞塊および軟骨/骨芽細胞複合体の移植における安全性(生体内で腫瘍化するか否か)および異所性骨形成能を、SCID マウスを用いた皮下移植モデルを用いて評価する。移植3 か月後の腫瘍形成(テラトーマの有無)および異所性骨形成(軟骨内骨化の有無)を、組織切片観察(HE 染色,von Kossa 染色)、動物用マイクロCT 解析を用いて評価する。さらに、これら細胞塊による骨再生効果を、ラット頭蓋骨広範欠損モデルを用いて評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初平成28年度に予定していた免疫蛍光染色および血管新生促進因子の測定(ELISAなど)について、iPS細胞から軟骨細胞塊に分化誘導する培養条件をさらに検討して確実なものにしてから行うよう研究を進めているため、これらの実験に要する費用を翌年度分として請求することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、iPS細胞を確実に軟骨細胞塊に誘導するために要する費用および軟骨や骨芽細胞特異的蛋白質の発現を評価する免疫蛍光染色および血管新生促進因子の測定(ELISAなど)に要する費用に使用する。また、従来予定していた動物実験や機構解析など効率よく実験を進めるために、この程度の使用額は次年度に必要であると考えている。
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