口腔癌の所属リンパ節転移の低侵襲治療法を開発するために、平成29年度においては、リンパネットワークにおける上流のリンパ節を薬剤投与部位としたリンパ行性の抗癌剤投与法の検討、転移リンパ節内の薬剤貯留時間が長い抗癌剤封入ナノ粒子の開発、および薬剤送達性を高めるナノ・マイクロバブル併用超音波照射システムの開発を行なった。本研究では、実験動物として我々が樹立したリンパ節腫脹マウスであるMXH10/Mo/lprマウスを用いた。このマウスにおいては、腫瘍細胞を腸骨下リンパ節(SiLN)に注入すると、SiLNの下流のリンパ節である固有腋窩リンパ節(PALN)に転移し、その後、PALNを切除すると肺転移が活性化されることが、これまでの我々の研究により明らかになっている。また、腫瘍細胞としてルシフェラーゼ発現腫瘍細胞を用いた。リンパ行性の抗癌剤投与法の検討においては、リンパ内皮細胞や血管内皮細胞に結合する性質を有するトマトレクチンを蛍光色素で標識し、注入速度を変えてSiLNに注入し、PALNでの蛍光色素の分布を蛍光顕微鏡で観察し、画像解析した。その結果、リンパ節への薬剤投与速度が速い場合、下流のリンパ節への薬剤送達が十分為されないことが明らかとなった。転移リンパ節内のナノ粒子封入薬剤の貯留時間の検討に関しては、蛍光色素を封入したナノ粒子をPALNに注入し、生体発光画像解析装置を用いて貯留時間を検討した。その結果、粒径が大きい抗癌剤封入ナノ粒子がリンパ節内貯留性に優れることが明らかになった。薬剤送達性を高めるナノ・マイクロバブル併用超音波照射システムの開発に関しては、抗癌剤封入ナノ粒子を転移リンパ節に注入した後に超音波照射することにより、抗癌剤の薬剤送達性が向上し、リンパ節転移のみならず肺転移病巣の形成の抑制効果も確認できた。この肺転移の抑制効果の機序は現在のところ不明であり現在検討中である。
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